第六話
士郎は、あつなに詰め寄る。
「そ、その日は多分、友達と遊びましたけどっ。 多分、その子達に聞けばわかると思います。刑事さん、もしかして私が犯人って疑ってるんですか?」
本気なのかリアクションなのかわからない反応をあつなは示した。
それを見て、士郎はにこやかに返答する。
「ははは、ちょっと怖がらせちゃいましたか! つい、やってしまうんですよ。昔の癖で。」
「そ、そうなんですか……」
「いえ、被害者があなたのファンだったみたいから何かわかるかもって思ったんですよ。自宅にも購入したチケットが残ってましたし、ネットでの購入の形跡もありましたから。相当好きだったんですね~」
士郎の態度が穏やかになったので、あつなは安心したのか体の力が抜けた。
しかし、これも「抑えの士郎」と呼ばれた彼のテクニックの一つであった。
「そうみたいですね。そんな熱心なファンの人がそんな事になってしまうなんて……私にも、何か出来る事は無いでしょうか?」
「いえいえ、あなたもお忙しいでしょう? お心だけでも彼は喜ぶと思いますよ。」
「でも……」
「殻倉さん? どうしても、お力になりたいと言うのですか?」
「は、はい。犯人も見つかっていないようですし……お手伝いする事が出来るのなら。」
「それなら、ひとつ手伝ってもらいましょうか。少しお時間をいただきますよ。」
あつなは、まんまと士郎の言葉に乗せられたのだった。