第二話
世田谷でニートの遺体が見つかった。
刑事である士郎は、現地に向かったがあまりの惨状に目を覆った。
両親が訪れた時のショックにも目を覆った。
「お父さん~どうしたの? そんな顔して。」
「いやな、こういうの見ていると思いだしてしまうんだよ。2日前の事件をさ。」
TVに映っているのは「聖剣少女アルターリンク」という、剣を持った女の子がチャンバラをしているアニメだった。最近の深夜番組にはこう言うのもあるのかと士郎は思った。焼酎を飲みながらこんな番組を見ているのには違和感を禁じ得ない。
「なあ、鏡子。NHKに変えていいか? 確か韓流ドラマか何かがやってただろう。」
「だーめ。」
鏡子は17にしては、しっかり者だった。母親が早くに亡くなったのもあるだろう。
勉強も運動も昔からよく出来て、今は名門お嬢様学校に通っている。
士郎は我ながら、よくできた娘だと思っていた。大人びた雰囲気さえあるそんな鏡子がこんな時間にこんなアニメを見ていたと言うのは彼にとっては意外なことだった。
「まったく、こんなもののどこが面白いんだ?」
「下手なお笑いとか韓国ドラマより面白いって。何てゆうか夢があるって言うか、あんまりこういうの見ない方なんだけど、良く出来てるんだよこのアニメ。ストーリーも映像も。」
確かに、3D等もふんだんに混ぜ込まれたグラフィックは美麗なものだった。
あの被害者も、こんなものを見て虚ろなる夢に身をゆだねていたのだろうか。
ニート男、坂崎 台三郎殺害の容疑で真っ先に挙がったのは、アパートの隣室に住むこ大学生の永森 守であった。類は友を呼ぶと言うかこれまたアニメイトなヤツで、部屋に入った士郎達は「またこんなのか」と思って呆れた。森永は大学でも「キレやすい奴」で通っていた。実際、士郎達が部屋に足を踏み入れた時は思いっきりブチ切れて印象を悪くした。事件の起こった当時も家にいたようで、いまいち明確なアリバイも無い。そして、隣室と言う事もあって、騒音などによるトラブルがあったのではないか度々の疑いも出て、上層部では、もう彼が犯人だと決めつける者もいた。
しかし、士郎にはまだ引っかかるものがあった。
「灯台もと暗し」と言う言葉もあるが、そんな簡単に決めつけられるものだろうか?
犯人が他にいるとしたら。
見たくもないアニメの画像をぼんやり見ながら士郎は思いにふけった。