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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

違います

作者: 赤川ココ
掲載日:2026/01/31

手慰み、第数弾でございます。

お楽しみいただければ、幸いでございます。

 嫉妬深かった妻が、ようやく逝った。

 伯爵は、妻の葬儀を終えてすぐ、最愛の女を迎えに行った。

 男爵令嬢だった彼女とは、伯爵家を追い出された後、全く会えていなかったが、風の噂で男児を出産して姿を消したと聞いていた。

 彼女の実家に残された男児は、後継ぎとして扱われ、何処かに働きに出ている女は、時々様子を見に里帰りしているらしい。

 伯爵は、その里帰りの時期を探り上げ、その日に直撃したのだった。

 先触れのない訪問に男爵は驚いたが、伯爵の問いには静かに答え、一人の男児を連れてきた。

 最愛の女に似た、愛らしい男児だ。

「おお。お前が、私の息子か」

「? 伯爵? それは……」

「いくつになる? お前の母と過ごしたのは確か……」

 感激した伯爵は、男爵の戸惑う声に構わず、笑顔で男児に尋ねた。

 男児は可愛らしく首を傾げつつ、答える。

「四つです」

「そうか……それは、可笑しいな? お前は、六つになる年のはずだ。男爵、下手な小細工は、見苦しいぞ」

「伯爵、何か、勘違いなさってはおられませんか?」

 戸惑ったままの男爵を睨み、伯爵は言った。

「確かに、四歳児並みの大きさだが、それはこの家で、不遇な目にあっているからではないのかっ?」

「は? それはわが家で、虐待を行っていると?」

 目を見開いた男爵は、慌てて返した。

「伯爵が、我が家にいる娘の子供と会いたいとおっしゃったのは、そんな根も葉もない話にするためだったのですかっ?」

 そして、はっきりと続けた。

「あなたと娘との子は、この家にはいないのにっ」

 

 意外な言葉に唖然とした伯爵に、男爵は言う。

「大体、この子は娘と、里帰りしてきました。我が家で養っているのでは、ありません」

「は?」

「娘は、雇用先の執事様宅に見初められ、嫁入りいたしました」

「そ、そんなはずはっ。待っていてほしいと、頼んだはずなのにっ」

 嘆く伯爵に、男爵は呆れたように溜息を吐き、傍に控えていたメイドに合図して、娘夫婦を呼んだ。

 久しぶりに見た最愛の女は、一目で高貴と分かる男の横に立っていた。

「……お久しぶりでございます、伯爵」

「何故、侯爵と並んで……」

「私の妻なのだから、当然だと思うが?」

 呆然とした伯爵に、冷ややかな声の侯爵が言った。

「息子と会いたいと言うから、試しにこの子だけ送り出してみれば……随分と、可笑しな暴言を放ったな」

「そ、それは……っ。では、私の息子は、何処にっ?」

「この家には、おりません」

 侯爵夫人は、きっぱりと言い切った。

「嘘、だ。確かに、私の子を産み落としたと、報告が……」

「ほう、それは、監視していた、という事か? 解雇したメイドの行動を?」

「っ」

 黙り込んだ伯爵に、侯爵はやんわりと続けた。

「先触れもなかったというし、どうやら、貴族としても常識がないようだな」

「……っ」

「その辺りの抗議文も、男爵家と連名で、伯爵家に送らせてもらう。今日は、お引き取り願おう」

 反論の余地もなく、伯爵は護衛たちに男爵家から追い出されてしまった。


 追い出された上、強制的に伯爵家の馬車に押し込まれ、馬車ごと追い出される伯爵を見送りながら、侯爵夫人となった女が、安堵の涙を流す。

「良かった……」

 それが、どのくらいの安堵感なのかは分からないが、男爵と侯爵の安堵感の深さには、及ばないだろう。

 侯爵が武者修行として、執事見習いで雇用されていた公爵家で、メイドとしてやって来た男爵令嬢と出会ったのは、五年前だ。

 伯爵家の、女伯爵の推薦場を携えた彼女の働きは目覚ましく、容姿も輝かしいほどだったが、伯爵家を辞してから公爵家に雇われるまで、一年ほど間が開いていたのが気になり、相思相愛になった頃に控えめに尋ねてみたら、令嬢は重い口を開いてくれた。

 学園時代に友人だった女伯爵家に、メイドとして雇われていたのだが、その容姿を伯爵の入り婿に見初められ、ついには深い関係を強要された。

 その時には既に、女伯爵にも子供がいて、伯爵家を辞するしか、なくなったのだそうだ。

「……伯爵さまのお子様はご令嬢なのですが、二代続けて女性ではと、危ぶむ声もあるそうで、わたしが継承争いに巻き込まれる可能性も出て来ると、伯爵さまから懸念されまして、お暇をいただくことになったのです」

 令嬢が男児を産み落としてしまったことも、懸念に拍車をかけた。

 伯爵は紹介状を書き、自分よりも身分の高い公爵家へと、令嬢を売り込んでくれた。

 そして、生まれた男児を、令嬢が入り婿を取って継ぐはずだった、男爵家の後継ぎにする手続きをする。

 そこまでしたのだから、もう安心だと思ったのだが、足りなかった。

 伯爵が過労で、早くに亡くなったと知り、葬儀に出席して男爵家に身を寄せていた時、伯爵が突然訪問してきたのだ。

 当時は、侯爵との婚約はまだ正式ではなかったため、令嬢は拒むことが出来なかった。

 男児が、父親を恋しがり、一緒に行くと言ってしまったのも、拍車をかけた。

 再び伯爵家に、今度は嫁ぐ形で入った令嬢が、その後どんな生活をしたのかは分からない。

 だが、女伯爵の忘れ形見の令嬢を、必死で守ろうとしていたのだけは、疑う余地がない。

 侯爵位を継ぎ、そろそろ血縁の誰かを養子に取ろうと考えていた頃、衝撃的な事件が国中を揺るがした。

 第三王子の婿入り先を、伯爵家の入り婿とその後妻と息子が簒奪しようとして、伯爵令嬢と婚約者である第三王子が、その企みを暴いたのだ。

 弁明の余地もなく、三人が罪に服した後、夜会で伯爵令嬢と挨拶する機会があった。

 令嬢自身は、一人で挨拶回りしており、もうすぐ婚姻予定であるはずのお相手の隣には、別な女性が侍っていた。

 それを見た時、霧が晴れたような気持になった。

 企みは、伯爵家だけのものではなかったのだ。

 侯爵は、伯爵家の後妻となった思い人が、何の弁明もせずに刑を受け、死んだことを知っていた。

 それが、伯爵令嬢のためになると考えていたからに他ならないだろうに、その伯爵家の醜聞を盾に、婿入りする者が、好き勝手しようと目論んでいるのが、傍目でも分かるほどだ。

 彼女が守ろうとした娘が、将来先代の伯爵と同じ苦悩を味わうのを、黙った見ているわけにはいかない。

 彼女が世を去って以降、事務的に仕事をしていた侯爵は、目が覚めた。

 昔世話になった公爵家とも話を通し、伯爵令嬢と第三王子の婚約を、白紙に戻した。

 その際、第三王子が伯爵の入り婿とその息子をそそのかし、犯罪に走らせた証拠も、然るべき機関に提出した。

 そして、縁談が消えた令嬢を、侯爵家の養女として迎え入れたのだった。

 肩書上は、伯爵位を持つ令嬢と、養子縁組した形だ。

 領地もその分増えて、侯爵自身も忙しくなったが、後継ぎが出来たことで、少しだけ気分も軽くなった。

 ここに、最愛もいれば最高だったんだがと、思わなくもなかったが、最期は穏やかなものだった。

 と、思ったら、戻っていた。

 執事見習いとして、侯爵家にいる時分だ。

 丁度、男爵令嬢のメイドがやってくると、知らされた時だ。

 思わず、人目もはばからず、泣いてしまった。

 そして、もう決めていた。

 今度こそは、決して伯爵家には行かせないと。


 女伯爵が亡くなるのは、防げなかった。

 害意に晒されたのではなく、本当に病死だったからだ。

 令嬢の友人なのだから、何とか救えないかと立ち回ったのだが、根治法のない病では、打つ手がなかった。

 だが、時期が分かっているからには、他の不幸は防ぐと、男は決めた。

 女伯爵の葬儀に出席するべく、侯爵子息は男爵令嬢に求婚し、夫人にしていた。

 メイドとなった令嬢と会って、一年という急ピッチだ。

 そしてすぐに、子を授かった。

 その子を連れて、侯爵夫妻は男爵家に里帰りしたのだった。

 本物の伯爵の入り婿の子は、伯爵家の馬車が見えなくなった頃、屋敷に戻ってきた。

 領地を、見回る時間だったのだ。

 これも、今日のために習慣づけていた。

 あの男が伯爵家に戻った頃から、別な計画も動き始める。

 奴を、伯爵家から追い出し、伯爵令嬢の婚約を阻止し、後にやらかす王子らを、根絶やしにする。


 今から、腕が鳴ることだ。




 一度手放した女性を、執拗に追い回す高貴な男を、ぶちのめす話が出来ればいいんですが。

 中々うまくできません。

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