第3話 山上のスポーツ校と、自滅の牙
目には滅を!歯には破を!
第3話 山上のスポーツ校と、自滅の牙
猪奈倉高校での出会いから数日後。藤野たちのスマホに、大西敢太からの緊急メッセージが届いた。【助けて……野球部に捕まった。場所は宮華西高校のグラウンド裏。急いで!】大西が単独行動で調べた結果、悪の組織の息がかかった野球部員たちに拉致されたらしい。猪奈倉チームのメンバー――伊藤、村上、中村もすでに現地に向かっているという。「大西の仇だ。行くぞ!」藤野の言葉に、紅葉高校チーム全員が頷いた。石本は地図を分析し、丹羽は予知で危険度を測る。「宮華西高校……山の上にあるスポーツ強豪校。ゴルフ部と空手部が特に有名だ。敵はそこに潜んでる。」その日の午後、一行は電車とバスを乗り継ぎ、山道を登った。宮華西高校は標高の高い場所にあり、校舎からは街が一望できる。スポーツ施設が充実し、グラウンドでは部活の掛け声が響いていた。グラウンド裏の倉庫街に着くと、すでに戦いが始まっていた。「絶対にぃ! お前らは動けない!」村上の能力で敵の動きを封じようとするが、相手は二人――堅山と瑞元。どちらも元白誠中学校出身の能力者だ。堅山はゴルフ部のお坊ちゃん風。C級能力者で、ゴルフボールを当てる恐怖の幻想を見せる。村上たちに幻覚を浴びせ、逃げ腰になる。「ははっ、弱いな。ゴルフは精神のスポーツだよ。」瑞元は空手部の大会優勝者。B級で、空手の技を自在に繰り出す脳筋。勉強は苦手だが、空手道の精神は本物らしい。猪奈倉チームは苦戦していた。大西はすでに怪我を負い、地面に倒れている。藤野たちが到着した瞬間、堅山がゴルフボールを振る。「まずはお前らからだ!」ボールが飛ぶ――いや、飛んだように見える。実際は幻覚。藤野の頭に激痛が走り、ボールが顔面に直撃する恐怖が襲う。石本や浦澤も膝をつく。「くそっ、精神攻撃か!」葉山が欲求を操ろうとするが、堅山の精神力は意外に弱く、すぐに逃げ腰になる。「もういやだ! 瑞元、助けろ!」堅山が逃げようとしたその時、瑞元が現れた。「堅山、お前……逃げるのか?」瑞元の目が冷たい。空手着の袖をまくり、堅山に正拳突きを叩き込む。ゴルフクラブを拾い、堅山の脛を叩く。内出血の音が響き、堅山は絶叫する。「やめろ! 俺たちは仲間だろ!」「仲間? お前みたいな弱虫は、組織の恥だ。」瑞元は容赦なくクラブを振り下ろす。堅山の足は複雑骨折。ゴルフなど二度とできない後遺症を負い、泣き叫びながらリタイア。藤野たちは幻覚から回復し、呆然と見つめる。「自滅……?」瑞元は息を荒げながら、藤野たちに向き直る。「次はお前らだ。空手道の技、見せてやる。」強烈な突きが飛ぶ。丹羽の予知で避けるが、威力は本物。内田が奇跡を1回使い、攻撃を逸らす。藤野が問う。「空手道の精神って、悪用していいのか? 攻撃に使うのは、道に反してるんじゃないか?」瑞元は一瞬、動きを止めた。脳筋だが、空手道の精神は心に刻まれているらしい。「……確かに、そうかもな。でも、組織の命令だ。」村上が叫ぶ。「絶対にぃ! お前は空手ができないぐらい複雑骨折する!」瑞元の足が、突然ねじれる。骨の砕ける音。堅山への攻撃が原因で、自分の足も同じ運命を辴う自滅の連鎖。「ぐあぁっ! な、なんだこれ……!」瑞元は地面に崩れ落ち、リタイア。別の高校に空手得意の能力者がいる、と情報を吐いて気絶した。戦いが終わった直後、倉庫の影から一人の男が現れる。謎の人物。顔は見えないが、冷たい声で警告した。「よくやったな。だが、他にも刺客はいる。むやみに詮索するな。次は本気で始末するぞ。」男は煙のように消えた。大西を中村が回復させながら、皆が息を吐く。「奴ら……内部で食い合ってる。自業自得だ。」伊藤が絵で皆の心情を描く。疲労と怒り、そしてわずかな達成感。石本が分析する。「組織の結束は脆い。性格に難のある奴らばかりだから、内輪もめが起きやすい。俺たちの戦法に合ってる。」浦澤が過去を遡る。「堅山と瑞元、白誠中学校出身。藤野と同じだ。」また、白誠中学校。藤野の頭に痛みが走る。空白の記憶が、少しずつ疼き始める。伊藤がポツリ。「あの学校……教師たちがおかしかったような……」帰りのバスの中で、藤野は窓の外を見つめる。山の上から見下ろす街並み。スポーツの名門校で起きた、醜い自滅。「暴力を使わず、奴らの牙を自分たちに向けさせる。これが俺たちのやり方だ。」丹羽が予知を深める。「次はもっと強い敵。でも、能力が覚醒する兆しが見える。」内田が笑う。「奇跡は、きっと起こる!」猪奈倉チームと紅葉チームの絆は深まった。大西は回復し、落語で皆を笑わせる。「いやぁ、怖かったよ。でも、仇は取れたね。」村上が大声で。「絶対にぃ! 次も勝つ!」だが、心の奥で藤野は感じていた。組織の影が、徐々に濃くなる。白誠中学校の教師たち――贔屓と能力付与の闇。復讐の歯車が、静かに回り始めていた。宮華西高校の夕陽が、赤く染まる。次なる戦場は、紅葉高校の身近な場所――部活動の闇へ。




