第2話 猪奈倉の旧友と、蘇る影
目には滅を!歯には破を!
第2話 猪奈倉の旧友と、蘇る影
紅葉高校の喧騒から数週間。藤野の日常は、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった。闇部の脅威は一時的に去り、冨士原の処分も決まった。砂野は回復し、チームの一員として加わった。寡黙だが、ネットで情報を集めるのが上手い。時折、藤野に申し訳なさそうに頭を下げる姿が、どこか懐かしい気がした。「藤野、すまなかった。本当に……あの時は、藤野に脅されて。」砂野の言葉に、藤野は首を振る。「もういいよ。味方になってくれたんだから。」だが、心の奥底で小さな違和感が残る。砂野の顔に、かすかな見覚えがある。記憶の空白が、時折疼く。そんなある日、藤野のスマホに一通のメッセージが届いた。【藤野、久しぶり。猪奈倉高校の伊藤だ。能力のことで相談がある。会えないか?】猪奈倉高校――田舎の野球強豪校だ。知り合いなどいないはずだ。だが、なぜか胸がざわついた。石本が分析する。「罠の可能性もある。でも、行ってみる価値はあるかも。俺たちも同行する。」丹羽が目を細めて予知する。「ぼんやりと……古い友人の影が見える。危険は少ないけど、何かが動き出す。」内田が拳を握る。「奇跡、起こすぜ!」一行は週末、猪奈倉高校へ向かった。田園風景が広がるキャンパスは、のどかで、野球部のグラウンドから活気ある声が響く。待っていたのは、背の高い男子生徒、伊藤。彼は絵を描くのが趣味らしく、手にスケッチブックを抱えていた。「藤野……やっぱり、お前か。記憶、なくなってるって聞いたけど。」伊藤の言葉に、藤野は眉をひそめる。「知り合い……?」伊藤は苦笑し、近くのベンチに座るよう促した。そこにはもう三人。元野球部の村上、感情豊かで明るい。ぼんやりした雰囲気の回復能力者・中村。そして、落語好きで少しネガティブな大西。無能力者だ。「俺たち、白誠中学校の同級生だよ。中学時代、よく一緒に遊んだ。藤野の写真撮影に付き合ったり、旅行の話したり……でも、お前は記憶を失ってるんだよな。」白誠中学校。その名を聞いた瞬間、藤野の頭に鋭い痛みが走った。空白の向こうに、何かがちらつく。石本が冷静に問う。「証拠はあるか?」伊藤はスケッチブックを開き、素早くペンを走らせる。描かれたのは、中学時代の藤野たち。写真撮影中の藤野、笑う村上、ぼんやりする中村、大西の落語姿。細部まで完璧だ。「俺の能力。絵に描いたものを具現化できる。そして、他人の心情を絵で表すことも。」描かれた絵から、淡い光が溢れ、藤野の心に温かい感情が流れ込む。懐かしさ。確かに、友人だった。村上が大声で言う。「絶対にぃ! お前は俺たちの仲間だ!」その言葉に、絶対的な確信が宿る。村上の能力――「絶対にぃ!」で始まる言葉は、絶対に現実になる。中村がぼんやりしながら癒しの光を放つ。「傷、治すよ。」大西は少し暗い顔で。「俺、無能力者だけど……最近、野球部にやられた。悪の組織が絡んでるって情報、掴んだんだ。」大西の言葉に、皆が息を飲む。猪奈倉高校の野球部の一部が、能力者として暗躍しているらしい。背後には、紅葉高校の闇部と同じ影――悪の組織。浦澤が過去を遡る。「直近7日以内の情報なら……待て、猪奈倉の野球部、最近怪我人が多い。表向きは練習中の事故だけど、不自然だ。」葉山が変態的に興奮しながら。「野球部のユニフォーム、尻のラインが……いや、集中しろ俺!」丹羽が予知を深める。「これから、もっと大きな敵が来る。けど、仲間が増えれば勝てる。」意気投合した一行は、同盟を結ぶ。猪奈倉チームは、能力者同士で集まり、悪事を暴く活動をしていた。藤野たちは情報を共有し、互いの能力をレベルアップさせる練習を始める。伊藤の絵は、道具さえあれば具現化可能。村上の絶対命令は、声が必要。中村の回復は自分に使えず、大西は情報屋。「一緒に戦おう。奴らの自滅を誘うんだ。」藤野の言葉に、皆が頷く。練習中、藤野の能力が少し進化する。記憶奪取の精度が上がり、周囲の短期記憶を一気に消せるようになった。寿命奪取の兆しも感じる。夕暮れ、グラウンドで別れを惜しむ。「また連絡する。絶対にぃ! 勝つぞ!」村上の言葉が、絶対の誓いとなる。帰りの電車で、藤野は窓に映る自分の顔を見つめる。白誠中学校――友人たちの言葉で、少しずつ輪郭が浮かぶ。楽しかったはずの日々。なのに、なぜ記憶が消えた?砂野がポツリと呟く。「白誠中……俺も、そこ知ってる。藤野はそこ出身だったのかも。」石本が眼鏡を光らせる。「組織の中心は、そこにある可能性が高い。」内田が笑う。「奇跡は起こるさ。記憶も、取り戻せる。」だが、その夜。大西から緊急の連絡。【単独で調べたら、野球部に捕まった。助けて……】猪奈倉チームの危機。藤野たちの戦いは、新たなステージへ。古い友人の絆が、蘇り始める。失われた記憶の向こうに、黒い教師たちの影が、ゆっくりと近づいていた。




