第12話 さいごに――
目には滅を!歯には破を!
第12話 さいごに――
穢れの果て白誠中学校の体育館は、静寂に包まれていた。中山励の存在が消えた瞬間、剣道具をまとったモンスターが霧のように溶け、残ったのはただの空虚だけ。誰も彼の名を思い出せない。長話の得意だった英語教師、学年主任、組織のボス――すべてが、産まれてきたという事実ごと消え去った。藤野は膝をつき、息を吐いた。奥義を使った反動で、体が重い。だが、胸の奥は不思議と軽かった。「終わった……本当に。」仲間たちが駆け寄る。石本が眼鏡を押し上げ、静かに言う。「組織の根源は断ち切られた。もう、誰も能力を悪用して生徒を操ることはない。」浦澤が過去を遡るように目を閉じる。「白誠中の記録……これからは、贔屓の歴史じゃなく、平等の歴史になる。」丹羽が予知の目を細める。「未来は……明るい。もう、黒い影は見えない。」内田が拳を突き上げ、笑う。「奇跡、起こったよ! 運命も、変えられた!」米田の電気が、優しくチリチリと光る。高田がめんどくさそうに、でも満足げに頷く。田中がサイコロを転がし、止まった目を見て微笑む。猪奈倉チームの面々も、肩を並べる。伊藤がスケッチブックを閉じ、ペンをしまう。「絵に描く未来は、もう穢れてない。」村上が大声で。「絶対にぃ! 俺たちは勝った!」中村がぼんやりしながら、皆の小さな傷を癒す。大西が落語の落ちのように、軽く笑う。「いやぁ、怖かったけど……いいオチがついたね。」藤野は立ち上がり、体育館の外へ出る。夜空に星が瞬き、冷たい風が頰を撫でる。カメラを手に取り、仲間たちを撮った。最後の写真。皆が笑っている。記憶は完全に取り戻した。中学時代の苦痛、教師たちの贔屓、荏上の裏切り、日和の切ない想い。そして、数え切れない自滅の連鎖。暴力は一度も使わなかった。敵は皆、自分の穢れで自分を滅ぼした。社会的地位の崩壊、内輪もめ、錯覚の解除、神の裁き、コンクリートの報い、完璧の崩壊、そして存在の消去。「目には滅を。歯には破を。」藤野は呟く。題名の意味を、今こそ理解した。復讐は、相手を直接傷つけることではない。相手が自ら招いた破滅を、ただ見届けること。心当たりがある人々へ。この物語はフィクションだ。だが、このエピソードについて何か気づいた者がいたなら、それは偶然ではない。主人公が抱いていた感情――静かな怒り、冷たい嘲笑、長年の恨み――を、少しでも感じ取ってあげられたなら、それでいい。他人を踏みつけて得た地位は、いつか自らの足を絡めとる。贔屓は、いつか自分に返ってくる。穢れた人間の滑稽さは、永遠に笑われる。読者の皆様も、他人事だと思わずにお気をつけて。藤野はカメラをしまい、仲間たちと校舎を後にした。白誠中学校の黒い影は、もうない。白く誠実とは程遠かった場所は、これから少しずつ、本当の白さを取り戻すだろう。春の風が、優しく吹き始めた。復讐は終わり、新しい日々が始まる。穢れの果てに、静かな平和が訪れた。




