第一話「氷華街」
凍りつく華が咲く街
夕暮れの校舎を背に、佐藤悠真は鞄を片手に歩いていた。隣には天野結菜。クラスでは「顔も性格もいい」と噂される少女だが、悠真から見ればどこか危うげで、いつも周囲を気にしているように見える。
「……今日も、ついてきてた」
小さく結菜が呟く。視線の先には、路地裏に立つスーツ姿の男――芸能スカウトを名乗る人物だった。学校の近くに現れるのは一度や二度ではない。最近は別の怪しい影まで見かける。
「ほっとけ。関わるな」
悠真が短く言うと、結菜は小さく頷いた。その表情には怯えが混じっている。
二人が角を曲がった、その瞬間だった。
街全体が閃光に包まれた。
視界が白く染まり、耳をつんざくような轟音が響く。次に意識が戻った時、二人は知らない場所に立っていた。
高層ビルが林立し、ネオンが瞬く都市。けれど人の気配は薄い。整然と整備されながらも、どこか無機質で不気味な街並み。
「……どこ、ここ?」
結菜が怯えた声を上げる。
その時、空中に幾何学的な光が組み上がり、人型のホログラムが現れた。機械的な声が、冷ややかに告げる。
「参加者各位、ようこそ“氷華都市”へ。あなたたちはこれより一年間、本ゲームのプレイヤーとなります」
説明は淡々と続いた。
この都市全体がゲームの舞台であること。
追跡者“氷鬼”が現れ、触れられれば氷漬けになること。
制限時間は一年。最後まで生き延びた者には、どんな願いも叶えられること。
都市内の施設はすべて無料で使用可能。ただし油断すれば命はないこと。
「……願いが叶う?」
結菜が小さくつぶやく。その瞳にかすかな期待と、不安が交錯していた。
やがて二人は割り当てられた部屋へと案内された。
そこはシンプルなワンルームで、最低限の家具とベッドが並ぶ。窓の外には、静まり返った街の灯りが広がっている。
「今日は特に鬼の出現はありません。明日以降を覚悟して休息を取ることを推奨します」
管理AIの声が響き、光のホログラムは消えた。
安堵と緊張が入り混じる中、二人は部屋に腰を下ろした。
「……本当に、ゲームなんだ」
結菜の声は震えていた。
悠真は言葉を探し、やがて短く返す。
「とにかく、俺たちは生き延びる。それしかない」
しばし沈黙が流れる。
ふと、室内の通信端末が点滅した。画面に映し出されたのは――見覚えのある男。例のスカウトマンだった。
「よぉ、天野さん。やっと二人きりで話せるな」
ニヤリと笑うその顔に、結菜の肩が震える。
「やめてください……!」
画面越しとはいえ、男はしつこく言葉を投げかける。まるでこの都市の混乱さえ利用して、結菜を絡め取ろうとしているかのように。
その瞬間、悠真が結菜の前に立った。
「黙れ」
冷たい声で一言。端末を乱暴に切断する。
沈黙。結菜は驚いたように悠真を見上げる。
「……ありがとう」
かすかに笑みを浮かべたが、その頬はまだ赤く染まっていた。
「休め。明日からが本番だ」
悠真はそれ以上何も言わず、ベッドに横たわった。
結菜も隣で小さく丸まりながら、心の奥で思う。
――この人と一緒なら、怖くても、生きていけるかもしれない。
こうして“氷華都市”の一日目は、静かに幕を閉じた。
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