陰キャムーブ
「悠斗くん……だよね?」
美桜が少し控えめに声をかけた。
「さっき、翔太たちから聞いたよ。昼間から場所取ってくれてたんだって? ありがとう。」
悠斗は一瞬返事に迷ったが、
「……ああ、別に。」と短く答えた。
その一言だけで、少しだけ救われた気がした。
今日一日が無駄じゃなかった。
炎天下での時間が、ほんの少し報われたように思えた。
「じゃあ、コンビニ終わったら一緒に戻ろうよ。私たち、ここで待ってるから。」
美桜が言うと、華もうなずいた。
「そうそう。あの人混みじゃ大変だし。」
だが悠斗は首を横に振った。
「いいよ。……もう、帰るから。」
華が驚いた顔をした。
「え? 帰るの?」
「場所は取ってあるし、あとはみんなで楽しめばいいだろ。……じゃあ。」
悠斗はそう言って列に視線を戻した。
悠斗は後ろをちらりと見た。
まだ美桜と華が並んでいる。
――なんで待ってるんだよ。
胸の奥がざわつき、落ち着かない。
このままでは二人と一緒に戻ることになる。
それは嫌だった。
列からそっと抜け、二人に向き直る。
「やっぱいいや。俺んちから花火見えるし、疲れたから帰る。」
美桜は一瞬、何か言いかけた。
けれど華が先に口を開いた。
「え? そっか……じゃあ、私たちは会場行くね。」
華は美桜の手を軽く引き、人混みの中へ歩き出した。
美桜は振り返りかけたが、そのまま言葉を飲み込み、華の後を追った。
悠斗は背を向け、ゆっくりと公園とは反対の方向へ歩き出した。