それぞれの戦い
「……やべ。」
首の後ろがヒリヒリし始めていることに、悠斗は気づいた。
日焼け止めなんて、家を出る前に一瞬も考えなかった。
普段はほとんど外に出ない。炎天下で何時間も過ごすなんて、今までなかった。
太陽は雲ひとつない空から、容赦なく照りつけてくる。
光はもはや、透明な熱の粒になって、重い雨のように全身に降り注いでいる。
肌だけでなく、頭の奥までじりじりと焼かれるようだ。
悠斗はうつ伏せになり、ブルーシートの端に顔を押し付けた。
芝生から立ち上がる熱気と、汗で湿ったTシャツの不快感が混ざり合い、
それでも彼はただ、ひたすら時間が過ぎるのを待つしかなかった。
そのころ、高城華は自分の部屋の鏡の前に立っていた。
買ったばかりの紺地の浴衣に朝顔の柄。帯も試着のときと同じく鮮やかな赤に結び、
髪を簡単にまとめてみる。
鏡の中の自分を見ながら、華は口角を上げた。
――これくらいの笑顔がちょうどいいかな。
好きな人と並んで歩く場面を想像しながら、首を少し傾けてみる。
浴衣の裾を指でつまみ、軽く一歩前へ。
「うん、これならいける。」
表情のシミュレーションはバッチリだ。
あとは、本番を待つだけ。