一軍女子のお買い物
放課後。
佐伯美桜と高城華は、駅前のショッピングモールの浴衣売り場に並んでいた。
カラフルな反物がライトの下で整然と並び、ポップには「花火大会おすすめコーデ」とある。
「ねぇ見て、これ絶対かわいい!」華が紺地に朝顔模様の浴衣を手に取る。
「華っぽいね。華やかだし。」美桜は微笑みながら別の棚を眺める。
「美桜は白が似合いそう。ほら、これ涼しげでいいじゃん。」
「……うん。でも帯はどうしようかな。」
二人は並んで鏡の前に立ち、浴衣を胸に当てながら笑い合った。
「花火大会楽しみだね。絶対写真撮ろうね。」
「うん。翔太たちもいるし、絶対盛り上がるよ。」
その会話のどこにも、相沢悠斗の名前は出てこなかった。
試着室のカーテン越しに、華の声が弾む。
「やっぱ下駄買おうかな。浴衣にサンダルって、なんか雰囲気出ないじゃん。」
美桜は手にした白い浴衣を見つめながら、少しだけ肩をすくめた。
「私は、もう持ってるサンダルでいいかな。歩きやすいし。」
「でもさ、せっかくだし。好きな人と並んで歩くんだよ? カランカランって音、絶対かわいいって!」
華は下駄を両手に持ち、嬉しそうに鏡の前で足を動かしてみせる。
美桜はその姿を横目で見ながら、口には出さずに思った。
――私は、そんなふうに誰かの隣を意識して歩くのかな。