今年もこの日がやってきた
昇降口の掲示板に貼られた色鮮やかなチラシ。
「立川まつり国営昭和記念公園花火大会――」
相沢悠斗はそれを一瞥し、小さくため息をついた。
――今年も、あの季節が来た。
鮮やかな花火の写真の下には、開催日と「有料観覧席チケット発売中」の文字。
人混み、浴衣、笑い声。
そして、場所取りを頼まれる自分。
下駄箱の中のローファーを手に取りながら、悠斗は自分の役割を思い出す。
それは毎年変わらない。
教室に入ると、すでに成瀬翔太たちのグループは机を寄せ合い、楽しそうに話していた。
「今年はどこで見る? やっぱり去年と同じ芝生かな?」
「浴衣着る? 私、今年こそ買っちゃおうかな」
その輪の中に自分の席はない。
相沢悠斗は窓際の席に鞄を置き、無言で教科書を取り出した。
だが、話題はやがて彼の耳にも届く。
「なあ悠斗、お前家近いし、今年も頼むわ。昼間から場所だけ取っといてくれればいいからさ。」
「……うん。」
いつものことだ。断れるはずもない。
翔太たちはその返事だけを確認すると、再び楽しげな計画に戻っていった。
悠斗は机の中の鉛筆を握りながら、窓の外に目をやった。
――今年も、同じだ。