アジト
「着いた。多分ここだ」
俺たちが向かった先は、町の少し離れたところにある廃工場だった。
「そういえばここ、ニャルの信者のアジトだったな」
別にハワードの信者全員が狂信者というわけではない。周りに迷惑かけない程度に信仰する分には政府も、俺たち英雄も咎めたりはしない。いや、黙認しているの方が近いだろうか?なので別にアジトのありかなどは隠されてない場合が多いのだ。
「でも、ニャルのアジトってほかにもあるよな。なんでここなんだ?」
「ムーンビーストだよ」
「ああ、そういうことか」
ニャルラトホテプは信者こそそこそこいるが、ニャルラトホテプ単体で崇められてるところはそこまで多くない。どうやら、ニャルラトホテプは「天界の存在」とかみたいに別の世界にいるという考え方ではなく、今もこの世界のどこかで人間のふりをしていると考えられてるから、そこまでがっつりと崇める必要がないらしい。じゃあ何を崇めているか。ニャルラトホテプを崇めてたり、ニャルラトホテプの部下だったりするハワードらしい。ムーンビースト、シャンタク鳥、アルスカリ、他にも何種類かいたはずだ。
「で、確かここ、実際に崇めてるのはムーンビーストだよな」
「ああ、ムーンビーストは信者の中では結構不人気だからな。アジトは少ない。そこから被害場所の位置から考えるとおそらくここだろう」
「それで、どうやって入るんだ?まさか、素直にノックするんじゃないだろうな?」
「流石にそんなこと言っても入れてくれないだろうからな。こっそり侵入する」
そうして俺たちは塀をよじ登って中へと侵入した。中は元々廃工場だということもあり、特に変わった様子はない。本来なら廃工場を勝手に使っているので逮捕案件だが、ハワードの信者に喧嘩売ると色々と面倒だ。なのでよほどのことがない限り英雄も手を出さない。ま、今回はよほどのことが起こってるけどな。
「それで、こっからどうするんだ?」
「とりあえず、そこらへん歩いてりゃなんかあるだろ。行くぞ」
「行き当たりばったりだな・・・」
「いつものことだろ。計画立てるの苦手なんだよ」
あたりを散策していると、ぱっと見はただの廃工場だが、建物の中身はがらりと改造されていることが分かった。おそらくニャルラトホテプとムーンビーストを模したと思われる石像が大小さまざまな大きさで置いてある。また、おそらく魔導書と思われる怪しげな本も数多くある。
「ナイル、魔導書読んでみるか?」
「嫌だ。あれ読むとしばらく正気失うらしいから」
「そうか。じゃあ、お前ら読むか?いや、もう読んだのか?」
俺が少し声を張って言った。すると、物陰から狂信者と思われる男が三人ほど現れた。
「貴様ら、英雄か?」
「俺だけな」
「俺は情報屋だ。そこんとこ間違えるな」
「どちらでも構わない。この時間に侵入とはどういうつもりだ?」
「お前らだろ?最近多い行方不明事件の黒幕。それを確認しに来たんだが、そこまで敵意むき出しとなると完全に黒だな」
「知ってしまったなら生きては返せん。覚悟!」
狂信者たちは、一斉に俺たちに襲い掛かってきた。