風花
三人寄れば文殊の知恵といっても、それは人間だけの話だったのだろうか。それとも四人寄れば無能になり下がるのか。
「あのさ、俺ムーンビーストと戦うの久しぶりだから色々と忘れてるかもだけど、君たちそんなに弱かったっけ?」
ムーンビーストの攻撃をかわしながら聞いてみたが、案の定返事は帰ってこなかった。こいつら、人語理解はできるらしいけど喋れないからな。手加減して遊んでるのも主人公らしからぬ戦い方な気がするし、そろそろ終わらせるか。
ここは室内、更にはまだ春の終わりごろだというのに雪が降り始めた。雪は風に揺られ舞っている。ムーンビーストたちはこの非現実的な状況を目の当たりにして警戒心が増している。お前らごときがいくら警戒しようが、大したことないが。
次第に雪が降らなくなってきた。そして、完全に降らなくなった時、ムーンビーストたちは細切れになっていた。これが俺の作った後天的能力≪風花≫の力だ。
「相変わらずとんでもない火力だな」
そういいながらダルクが近づいてきた。
「いや、今回は相手が弱かっただけだ」
「剣士のくせに抜刀しないでよく言うよ」
「それで、なんか情報ないのか?」
「ああ、あるぞ。ムーンビーストの胃の中に人の肉が入っていた」
「え?あいつらって人食い種ではないよな?」
この世にいる一定以上の強さを持つ化け物は大抵が人食い種だ。ただ、ムーンビーストを始めとしたハワードには、人食い種はごく少数だ。でも、だとしたらムーンビーストにしてはいくら何でも弱すぎた理由も着く。
「突然変異・・・とも考えにくいよな」
「考えられることとしては餌替わりだろう」
「でも、わざわざ餌のためだけに人肉を用意してるとは考えにくい」
「そうだな。でも、今回の相手は狂信者だ」
「生贄のなりそこないってところか?」
「だろうな。用意したはいいものの何らかの理由で生贄にはできなかった人たちを食わせてたんだろう。証拠隠滅にもなるしな」
相変わらず、神を信仰するのは自由だけど周りを巻き込まないでほしいな。
「わかった。後はこっちで何とかする」
「心あたりでもあるのか?」
「ああ、まだ確定ではないけどな」
「そうか。一人で行くのか?」
「ああ、生憎俺みたいな個人業の英雄には頼るところなんてないんでね」
どこかの組織に所属している英雄なら、応援を呼んだら誰かしら来るだろう。しかし、個人業となれば、そうすぐに頼ることはできない。他の英雄も暇じゃないだろうしな。
「じゃ、俺行ってもいいか?」
「いいけど、死んでも知らんぞ」
「そこは守ってくれよ。情報代は払わなくていいからさ」
確かに、情報屋にしてはダルクは強い方だ。ハッキリ言って下手な英雄よりも強い。別にニャルラトホテプはまだ召喚できないだろうし、ムーンビーストも彼なら「倒す」が難しくても「耐える」ことは容易だろう。
「わかった。情報代帳消しな」