先天的能力
「さて、大半はマインに任せるとはいえ、二体ぐらいやっとかないとな」
正直マイン一人でやった方がすぐ終わるだろうけど、あいつめんどくさがりなところあるからな。
「えーと、そこのムーンビースト二体。降伏するっていうなら見逃してもいいぞ。俺としても専門外のことはあまりしたくない」
しかし、ムーンビーストはこちら側に威嚇してきて、降伏する気配を感じられない。
「ま、そりゃそうか。できれば色々と話聞いてみたいが、俺こいつらの言葉わかんないしな。死ぬ前に殺すか」
すると、ムーンビーストがこちらに突撃してきた。難なくかわすことはできたが、ムーンビーストの持つ槍は地面深くに突き刺さり、もし当たっていれば即死は確実だっただろうと直感的に感じられる。
これはもうやるしかないな。でもよかった。相手がこの程度の奴らで。
俺は、自身の先天的能力≪バインドエスケープ≫で自身のネクタイを伸ばしてムーンビーストを二体まとめて縛った。ムーンビーストは抵抗しているが絞める力が強くなるにつれ動きが小さくなり、最終的に動かなくなった。
「悪いが俺はあいつと違って英雄じゃないんだ。先天的能力しかない。だから楽には殺せない」
俺はそう詫びてからネクタイの絞める力を更に強めた。ムーンビーストは苦しそうな声を上げ、次第に目が受け出て、穴という穴から血を流し、最終的に息絶えた。自分でやっといてなんだが夢に出てきそうなほどグロかった。
≪先天的能力≫。一部の人類。とはいってもそこまで珍しいものではなく、十人に一人とかそんぐらいの人が生まれつき持っている特殊な力だ。その内容は人によって異なる。俺の先天的能力、≪バインドエスケープ≫は自身の首に巻いてるネクタイを伸ばすことができる。一応先天的能力とは別に後天的能力というものもあるが、生憎そんなのを情報屋が持ってるわけがない。もし持っていたら、内容次第ではあんなグロいの見ないで済んだかもしれないが。
「さて、どうせマインは心配いらないだろうし、あまり見たくはないが死体調べるか」
ムーンビーストの死体は二体ともとても見るに堪えない残酷な見た目になっていた。まったく、誰だこんなひどいことした奴。許さないかんな!
さて、そんな冗談はさておき真面目に調べてみますか。このムーンビーストはおそらくニナさんが召喚したんだろ。その証拠にネクタイで絞め殺され内臓類はむき出しになっているが、心臓と思わしきものだけが見つからない。人と、ムーンビーストのようなハワードと呼ばれる化け物の契約は、人間側が上にいる場合、相手の心臓を奪っておくことが多い。しかし、これはあくまで自身の方が上である場合のみだ。普通、人間は化け物、ましてはハワードよりも確実に弱い。上に立つことはできない。確実にニナさんは先天的能力の使用者。しかもムーンビーストを六体も従えさせることができるレベルの強者。ただものじゃないな。あまり俺は相手にしたくない。
そう考えながら部屋の中を見渡すと、そこには戦闘前までいたはずのニナさんの姿がどこにもなかった。