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類魂  作者: 嶋恭作ニ
第三章 第二の人生へ
45/45

45.卒業

X-dayの夜、恭作は離婚を切り出した。緊張と恐怖で何をどう説明したかあまり覚えていないが優子の事はちゃんと話をした。


「え〜⁉︎ 貴方に女の人がいたなんて信じられない!いつ、どうやって付き合っていたのよ⁉︎」


と言われたが、優子に言わせると'よく奥さんにバレないわよね?お泊りしている時の下着の数だって合わないし、私と付き合ってから着ているモノの趣味だってガラッと変わっているのに?洗濯した物の柔軟剤の匂いだって全然違うんだから私だったらすぐ気が付くわよ'という感じで、確かに気付かないのは興味がないからだと改めて思った。

恭作は浮気した事については謝るけど間違ってないと確信している。だから離婚してくれれば不動産を含めた全財産は半分ずつ分けた上でそこから相場以上の慰謝料を払い老後の金銭的心配はないようにするので納得してくれと頼んだ。興味も愛情も無いはずなので、高額慰謝料で納得してもらえるだろうという作戦だった。とにかく精神的圧迫を除けば傍目には全面的に恭作が悪いのだから自分に出来る事は最大限しようと思ったのだが


「金じゃ無いのよ!」


と逆上し用意して手渡した財産の明細と慰謝料の案の紙を破り捨てた。

'愛でも無く金でも無くじゃあ一体何なんだよ?'

と聞きたかったがここは下手に出て火に油を注いではいけないとひたすら低姿勢で聞き役に回った。

仁美さんからもアドバイスされていたのだが、要するに彼女はプライドと他人からどうみられるかの見栄が人生の中で優先しているようだ。その事を裏付ける発言が彼女の口から放たれた。


「この私が離婚される⁉︎ 考えられない!第一、親戚や近所に何て言うのよ⁈」


 '出た!やっぱりそこか!仁美さんの言った通りだな'と思い、とにかく嵐が過ぎ去るのをひたすら耐えた。少し嵐が収まってきたところで少しだけ反撃した。


「大体君は僕に興味も愛情も薄かっただろう。ここ20年位は朝食を作るどころか、出かける時起きても来なかったよね。会話どころか’おはよう''ただいま'’おかえり’も無かったじゃ無いか。いや、そんな事はどうでも良い。問題はリスペクトとか相手を敬う気持ちとか興味ですら僕に対しては皆無だったよね。それは今の彼女に出会うずうっと前からだ。その他にもいろい言いたいけど決定打はこの前の癌入院の時だ。退院時に運転させてパン買ったり、退院直後の高熱なのに病院に送ってくれなかったりしただろう。これじゃ老後の君との二人暮らしはダメだなと決意したんだよ」


しばらく無言が続いた後、彼女はこう切り返してきた。


「家を出ていくって言うならしょうがないけど、彼女の家に行くのはやめて欲しいな」


仁美さんからあらかじめもらっていたアドバイス通り「卒婚」の話と暫く単身赴任していた関西に一旦中期出張する作り話を少し前からしていたので、なんとか卒婚で別居する形でその夜はとりあえず話を終わらせた。

関西に行くというのはまんざら完全なウソでは無く、定年後の仕事のテクノスクール校長は前に単身赴任していた工場が本拠地で、定年後の一年契約だしコロナもあって関東の事業所からのリモート勤務と出張でこなす事にしてもらっていたのだ。妻には少しの間そっちに行くという事と近所にはしばらく単身赴任することにしておいてという事でとにかく翌朝家を出た。行先は勿論優子の家だ。


「ただいま」

 

「良く抜け出して来れたわね。揉めたんじゃない?大丈夫なの?」


「大丈夫。離婚は出来そうに無いほど逆上してたけど、とりあえず脱出だけは成功した。関西に数ヶ月行っている事になっている。今日から夢だった二人の生活が始まるんだ」


その日から始まった二人の新生活はちょっとぬるめの温泉に浸かっているような幸せ感で、付き合い初めの頃憧れていた二人でのスーパーでの買い物ですら嬉しかった。恭作の不正脈はU子の家に移住数ヶ月後、何故か治っていた。仁美さんの「無理して一緒にいると死ぬわよ」という言葉はこれだったんだと納得した。彼女には背中を押されっ放しだがとても感謝している。


一方、愛奈は優子の家に度々来るようになり彼氏の悠介もよく連れてくる程になった。恭作は一年前位に彼を紹介されて何回か会っており、とても良い奴で酒が飲めないのが唯一の欠点だと思っているほど気に入っていた。4人での食事はとても雰囲気が良く、本当の両親と娘夫婦みたいだと思ってしまった。恭作は

'これも類魂か?前世の関係を仁美さんに観てもらう?いやいや、そうであってもそうで無くても何か怖い話だ。幸せなんだから観てもらう必要は無いな'

などと自問自答していた。

ちょうどその頃、愛奈も恭作も仁美さんから

「貴方たちはもうカウンセリングの必要は無いわ。自分の思った通りに人生を送りなさい」

とお墨付きをもらっていた。'これって卒業って意味だよな'と理解してこの幸せが続いて欲しいと感じていた。


-終わり-


「事実は小説より奇なり」とはよく言われているものですが、この小説も事実を元にして多少脚色(固有名称やストーリーの省略など)したものです。


2026年1月末現在、別居から3年半が経って「卒婚」状態のまま恭作夫婦は離婚に至っていません。でも優子との生活は幸せそのもので恭作も優子も戸籍はどうでも良くこの幸せな生活が続く事だけを祈っています。もし神様から'今迄の人生の中でやり直せるポイントがあったらやり直させてあげる'と言われてもやり直さない程人生を楽しんでいます。人生70年も過ぎると魂の存在とか「類は友を呼ぶ」とか実感する様になりました。そう思って生きていくと人生って面白い事が多く、歳をとるのも悪く無いなと思う今日この頃です。最後までお付き合いいただきありがとうございました。


2026年2月3日 嶋恭作

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