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類魂  作者: 嶋恭作ニ
第三章 第二の人生へ
36/45

36.引越し

同窓会事件の直後に優子のマンションの近所で問題が発生した。隣の商店とそのまた隣の銀行が相次いで閉鎖になり立ち退きしたのだ。マンションが建つとはどこにも発表されてないがその2軒合わせるとちょうど良い具合のマンション用敷地となる。しかも周りは次々と新築マンションが建ち始めている。'これはヤバい、間違いなくマンションだ'と思った。近所にはマンションがいくつかあったが幸いいずれも少し離れた所にあり問題なかったが、さすがに隣に建つとなると窓側の景観は全滅となる間取りだ。建設中もうるさいだろうし建ってからも見晴らしは最悪となる事は明白だ。猫ちゃんにも良い事は無い。マンションが建つと発表される前に売り払って不便でも良いからどこか静かな中古一戸建てにでも引っ越そうと話し合った。優子は元々植物が好きでかろうじてベランダの鉢植えでその欲求を満たしていたが、庭付き住宅は憧れだったそうだ。恭作としてはあと3~4年で娘は大学を卒業して独立するだろうし(上の息子は既にし独立している)ちょうどそのタイミングで定年になるからその時に離婚か少なくとも完全別居して優子と老後の人生を歩もうと決めていたのでその計画に賛成だった。

優子に貸していたマンション購入時の資金も返済してもらっていたのでそれを追加資金にする事として、そのマンションが売れるであろう価格プラスアルファ程度の値段の中古一戸建てを探した。いくつか候補はあったが何と支線だが一駅先に新築物件を見つけてしまった。やや予算オーバーだが新築にしては非常に安い。恭作が無理して31歳の時(バブルの真っ最中)に借金して買った中古住宅と同じ価格で広さは倍近く、便利さと静かさも全然良い。'まあ何か問題があるのだろうけど参考に見に行ってみるか'という程度の軽い気持ちでその週末に不動産屋の予約をして内見に行った。なんと土地の広さと間取りは満点(庭はそこそこ広いしクルマは2台駐車出来て更に自転車も2台置ける。中は4LDK)だった。安い理由は道の狭さと冬の陽当たりの悪さから来る寒さと最寄の電車駅が支線のため本数が少ない事だという事が分かったが幸い通勤はクルマなので道の狭さだけ我慢すればOKなので話を進める事にした。これだけお得な物件だと次々に内見したい人が訪れているみたいで、すぐに手付けを打って抑えてくれと不動産にせかされその日のうちに仮契約した。優子の親友シャチからは’八百屋に行って大根買ってきたというのと同じレベルの速さじゃない!’と笑われた。

結局その7年も後の2025年末時点で未だ予想していたマンションは建っていないが今でも引越しは正解だったと確信している。マンションが予想以上の高値(なんと9年前に買った時とほぼ同額)で売れて予算内に済んだ事もあるし、静かで庭のある生活は優子にとっても猫のチロちゃんにとっても凄く快適だった。


恭作のこの頃は仕事も超順調で、欧米では各子会社の現地人スタッフにTony(トニー)と言われて海外ビジネスに勤しんでいた。Tonyという名前は37才でアメリカ駐在する時に何か欧米人に親しみやすいニックネームを付けろと駐在先輩に言われて適当に辞書をめくって付けたものだ。後にアメリカ人スタッフに本当にTonyって感じだと褒められた。Tonyは正式にはAnthony(アンソニー)、イタリア系の名前でイタリアやラテン系での呼び方はアントニオらしい。アントニオ猪木は子供のころ大ファンだったのでそれを聞いて嬉しかった。イタリア料理は大好きなのでひょっとしたら前世はイタリア人かと思ってしまうほどだ。コロナ前は海外出張の他に年一回日本で大々的な世界会議を催していて、その週は業務上の飲み会も含めて海外スタッフと毎晩飲み歩いていたほど仲が良かった。イギリス子会社の社長の同い年のバートには

「Tony,打ち明け話があるんだけど聞いてくれるか?実は俺ペトラと付き合っているんだ」

と打ち明けられてしまう程仲が良かった。ちなみにその時バートは離婚調停中でペトラは社内にいる20歳以上年下の彼女だ。これだけで小説一本書けそうな長い付き合いらしい。


そんな仕事も私生活も安定した時期で数年後に定年も見えてきた事もあり、第二の人生を優子と過ごす事を具体的に考えていた。しかし、また試練が続々と訪れる事とは思ってもみなかった・・・


-続く-

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