21.転勤
転勤の直前に東日本大震災が発生した。恭作は転勤前の準備出張でその当日は関東におらず、その強烈な揺れは経験していない。新幹線は止まり翌日は復活してなんとか帰れたが関東は大変な事になっていた。優子もその日は都内の事務所から家に帰れず猫ちゃん達は寂しかったと思うが双方の家も含めて無事だった。
しかし電車はまともに動かないし、クルマに乗っても信号も計画停電で止まったりして危険を感じた。ガソリンを入れるのも、納豆とか食パン買うのも一苦労だった。優子の住んでいる所沢は航空管制基地がある為計画停電が全く無く他の市よりはましだったが、通勤は大変だった。そんなバタバタしている中、会社では送別会の話も無く(あっても断るつもりだったが)、内心'いくら地震でバタバタしていても33年間関わった埼玉工場を去る自分に送別会の話も無しかよ'とがっかりした。確かに敵も多くいたのは感じていたし、仲の良い人材のほとんどは海外工場に転勤していていなかったのだが。'皆、不倫で飛ばされたと思っているんだろうな。そんな人間と仲良くしたらまずいってか。もうこの工場には帰りたくないし、帰れないだろうな'とも思った。恭作は地震の数週間後に関東を後にした。
恭作が京都の工場に赴任すると何と優子の上司の瀬島が部下になっていた。優子にとっては上司が変わってモラハラは無くなり、そちらのストレスは解消された。遠距離不倫になったので二人は別れるだろうと読んだ小山内社長の標的は優子から外れ、恭作の元に自分の腹心である瀬島を放り込んで次の作戦を開始したのであった。
京都の工場に赴任早々、恭作は小山内社長から呼び出された。ちなみに本社は大阪だが京都の工場も本社機能があり社長室は両方にあって、しょっちゅう小山内と顔を合わせざるを得なかった。
「恭作君、赴任早々工場長として大変だろうが、それ以外に君に特別やってもらいたいプロジェクトがある」
内容は中国の天津に新たに工場を作るというものだった。
「今までの埼玉での事業とは全く違うし、そもそも私は製品開発やその製造関連が専門です。ここの事業とは製品も市場も未経験な私に何が出来るんですか?」
「君は上海では埼玉関係の製品販売と工場運営に成功しているじゃないか。その成功経験を活かせば良いだけだ。中国側の出資者は確定していてその人間とうまくやれば経営面は大丈夫だし、製造と技術は瀬島君に任せれば良い。とにかくしっかりやってくれ」
いよいよ小山内の第三弾の攻撃が始ったが、鈍感で一本気の恭作は'新天地でいっちょうやったるか!'とむしろやる気を出したのであった。
-続く-




