1.出会い
今日、奴隷を買った。そう、奴隷を買ったのだ!...ん?聴こえが悪いって?そりゃそうでしょ。良いことじゃ無いのは自分でもわかってる。でも、でもさ。裏サイトに可愛い娘を見つけたらさ、買ってみたいじゃん。しかも安かったし。いくらだと思う?10,000円だよ?嘘やん。でも、落札できちった☆!それで今日、遂に決心して買っちゃった!キャー。...ごめん、興奮しすぎたね。...んぇ?名前?俺の?いる?んもぅそんな気になるの〜?仕方ないなぁ〜の◯ふと君はぁ〜。えっ、なんか駄目な部分あったかな?まぁ良いや。んで、何の話してた?あっ、そうそう(笑)、俺の名前ね。俺の名前は如月 咲弥。こう見えても金持ちなんだ。ん?髪とんがってそう?なんお話やら...いやいや、そんなの良いんだよ!とりあえず、俺は奴隷を買った!金持ち!俺、勝ち組ってやつって言ったら怒られちゃうかも〜。あ、明日来るらしいッス。
「...行きたくない。」
「...嫌...嫌!嫌だ!!!行きたくない!!!!みんな嫌い!!!嫌だ!!」
そんな嘆きは虚しく、冷たい空気に溶けていった。御主人様という存在が嫌いだ。私、東雲 來実...いや、そんな名前は無い。仲間内で呼んでただけ。周りの男達は番号で呼んでいた。101247番。そう呼ばれていた。鉄の首輪に繋がれた鎖で力尽くに引っ張られ、色んな事をされた。それはそれは酷い以上のものだった。拷問だなんて生ぬるかった。檻の中に居る時ですら怖かった。安心する場所は無かった。涙すら出なかった。感情が所々欠如して仕舞ったからこそ、より恐怖を植え付けさせた。皮膚は所々剥げ、片目は見えず包帯で隠れていた。死んだほうがマシだった。死ねば全てが、全てがどうでも良いんだから。あと、あと3日。3日だけ耐え抜いたら、臓器を売られる。つまり、つまり、死ねる。その事実が嬉しくて嬉しくて。初めて喜びという感情が生み出た。早く早くと願っていた。そんな時、背筋に悪寒が走った嫌な予感がした。感じたことの無い恐怖は薄い、細い身体を震わせるには十分過ぎた。黙れなんて言えなかった。言えるわけなかった。立つことの無い鳥肌が立つ時、男は無情にもその事実を告げた。私は買われた身だと。
「...はぁ。」
現在、夜が更けたであろう時間に、身体が悲鳴をあげた事で目を覚ましてしまった。檻に布が被っていて外は見えないが、日が無さそうな事、時間がかなり経っている様な気がした為に更け過ぎだと感じた。外の気温は凍える程寒く、木の逆剥けが手足に刺さり、冷たい血液がポタポタと滴り落ちていった。
「...寒い、行きたくない。...痛い、行きたくない。」
そう思えば思う程、感覚が消えていき、気づけば眠りについてしまった。
「おい!起きろ!」
背中を思いっきり蹴られ私は起きた。そうだ。未だこの男の下を離れられていない。奴隷が終わったわけではない。正直これからが本番だ。相手は富豪だと聞いた。なら話は簡単。性処理の道具にする。それ以外ありえない。どうせ他にも沢山、私達の仲間がいる。そんな邪知暴虐な人間を許せる程、壊れていなかった。
「ここだ。俺が去ってからそこの呼び鈴を押せ。でないと殺す。」
と脅し付きでやつは消えてった。完全に消えたのを確認してから、呼び鈴を、鳴らせなかった。やはり怖い。押せば、奴隷になる。でも逃げても...GPSがあるんだった...途方に暮れて、落胆で手をついた、そこは呼び鈴の場所だった。ピーンポーンと甲高い音が聴こえ、思わず仰け反った。無理もない、聞いたことが無いのだから。私は腹をくくった。
「はいはいどちらさんかぇ...って早くね?夜って書いてたけど...」
と御主人様であろう人が私を見るなりそういった。失礼だが、富豪にしては家が小さい。いや、周りにある一軒家サイズではある。でも、それでも、富豪にしてはなーんか小さいような気がしてならない。そう、考え込んでると
「あのー、聞いてる?ねぇねぇ、ッコホン。どしたん、話、聞こか(イケヴォ)」
とふざけているご様子の御主人様。
「あ、えっと、すみません。考え事していて...それより、貴方が私を買った主で間違いないですか?」
と聞いてみると、
「うん!そだよ〜。」
なんて能天気な返答が返ってくる。
「あれ?御主人様って阿呆じゃね?...ハッ!!」
つい声に出してしまった。物凄く、今死に近い。初日で死ぬのか、私。なんて思ってたら
「んぇ...生粋だこと...」
と困惑気味に言った。私は気になって
「えっ、あの、怒らないのですか?私、その、失言を、」
と言いかけた途端、
「気にすんな気にすんな。マイペンライよ。」
「マ、マイピン?なんて...」
「...フフッ。マイペンライ。大丈夫って意味だよ。」
そう優しく、何処か暖かい言葉を告げた。だからこそ、私は思った。
「此奴なら適当で良いや。」
御主人にも聞こえるように、私は宣戦布告をした。すると、
「やって欲しい事以外やってくれたら適当でいいんだけどさ。でもさ、でもぉ〜此奴呼びはぁ〜...ちょっとねぇ...やめてもらいたいかな〜?確かに御主人様って言うのが嫌なのは分かるよ?でも此奴は無くない?此奴は。」
と言ってきたので
「お前、名乗れよ。」
「えっなんか態度酷い。泣いちゃうぞ?玄関前で情けなく泣いて、泣き声に気がついた周りの人たちから見た君は困っちゃうと思うけど泣くよ?」
「そうなった場合奴隷買ったお前が非難されるよね?」
「ゥ゙グッ」
「...名前は如月 咲弥だよ。下の名前で呼んでグスッ。」
という感じで、なんか、うん。情けないのが御主人になったけど、どうすりゃいい?
...一方如月は、なんか態度酷い娘が来たけど、そんな?そんな嫌い?なんて思いつつ気になったことを聞いた。
「そういや君、」
「君って呼ぶのやめて。虫酸が走る。」
「言葉強くない?って違う違う。名前、名前教えて!」
と聞いてみた。彼女は、
「...無い。」
と呟いた。ヤベッと思い謝ろうと思った時、
「...でも、仲間からは東雲 來実って、そう呼ばれてた。」
と答えてくれた。なるほどなるほど。くるみちゃんねぇ〜。...かわええ名前してますやん、なんてオジサンを自分の中でカマしつつ、
「じゃあこれからは來実って呼んでいいか?」
と聞くと、細い首がカクンッと動いた。了承の合図を貰い、
「それじゃあ、これからよろしくな!來実!」
と新しい"家族"を家に招き入れたのだった。