表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/262

9.チュートリアル大浴場(1)


広い浴槽(よくそう)をなみなみと満たす湯を()かしてる呪術(じゅじゅつ)のことを、一緒に湯に()かった侍女(じじょ)のシアユンさんが説明してくれる。


生まれて初めての混浴(こんよく)への戸惑(とまど)いを、異世界の呪術への興味が、かろうじて上回ってる。


シアユンさんは、原因不明に眠ったままのリーファ姫のことを(おも)ってか、少し(さみ)しそうな表情をしている。だけど、冷静で明瞭(めいりょう)な口調から、頭脳明晰(ずのうめいせき)優秀(ゆうしゅう)な人なんだってことも伝わってくる。


「王国の呪術は大きく分けて5つあります。(じゃ)(はら)い、災厄(さいやく)()ける【浄化(じょうか)】。祖霊(それい)から未来の予知や助言を(さず)かる【託宣(たくせん)】。炎を発したり、熱を生じさせる【火炎(かえん)】。(やまい)(おさ)める【治癒(ちゆ)】。水脈(すいみゃく)鉱脈(こうみゃく)、また()せ物を(さが)し出す【探知(たんち)】の5つです。呪術師(じゅじゅつし)は祖霊に働きかけてこれらを顕現(けんげん)します。ですが、呪術師ごとに得意(とくい)不得意(ふとくい)があって、リーファ姫の場合は【浄化】【託宣】の呪術を主に行われます。ただ、【火炎】の呪術でも、熱を起こすことはお出来になるので、その呪力で沸かしているのが、こちらの湯です」


「へぇ……。リーファ姫は今、眠ってるのに沸かせるんですか?」


「いえ。呪術師は、呪符(じゅふ)呪紋(じゅもん)呪言(じゅごん)(きざ)むことで、離れた場所にも呪力を送って呪術を顕現させることが出来ます。こちらの湯は、リーファ姫のお刻みになられた呪符で沸かされています」


「湯を沸かすもとになる水はどこから?」


「このジーウォの城の下には大きな水脈が通っており、井戸から汲み上げられています。ちなみに、その水脈は300年近く前に【探知】の呪術で発見されました」


俺が次々質問してるのに、シアユンさんは(いや)な顔ひとつせずに(こた)えてくれる。なんか、随分(ずいぶん)遠回(とおまわ)りしたし、一緒に入浴中って変なシチュエーションだけど、これを俺の『異世界チュートリアル』ってことにしておこう。


「あの、人獣(じんじゅう)のバケモノ達に【火炎】の呪術は効かないんですか?」


「えっと……」


と、シアユンさんは初めて言葉に詰まった。それから、少し考えて、なにかに気付いたように話を()いだ。


「呪術師は王国全体でも58名しかいない希少(きしょう)な存在で、この城にいるのはリーファ姫だけです。それも、偶然(ぐうぜん)滞在(たいざい)していたというのが実際(じっさい)のところで、辺境(へんきょう)の城にまで呪術師を配置(はいち)することはありません。【火炎】の呪術を得意とする者は、火球(かきゅう)という敵を攻撃する呪術を顕現できますが、残念ながら、この城にはおりません」


なるほど。呪術師の絶対数が共通認識(きょうつうにんしき)になってなかったから、俺の質問にどう説明したらいいか戸惑(とまど)ってたのか。


ただそれより、今、この城に呪術が使える人がいないっていうのは残念な情報だ。


「俺を呼んだ、召喚の呪術はどうなってるんですか?」


「マレビト様の召喚は、呪術の原始形態にあたる『巫祝(ふしゅく)』に由来していて、呪術師なら誰でも行使できるとされています」


「へぇ……」


「ですが、呪術師の命と()()えになること、また、働きかけた祖霊が『真に王国の危機(きき)である』と認めない場合には、召喚は顕現せず、命を落とすだけになってしまうので、行使されることはマレです」


そんな『無駄死に』になるかもしれない危険な術で、あの青髪のリーファ姫は俺を呼んだのか。


自分は命を落とすんだから自分のためじゃない。城の人たちを守るために呪術を使ったんだな。シアユンさんが(した)うのも分かる気がする。


だいたいのことは聞いたけど、まだまだ知りたいことはある。


俺は、一番聞きたいことを、シアユンさんに尋ねた――。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ