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88.差し出された大浴場(2)


「最終城壁の中に逃げ込めた人たちは、みんな……、家族の誰かを人獣(じんじゅう)に殺されています……」


クゥアイは俺を()()見詰(みつ)めたままで、口を開いた。


「ウチは元々、お祖母(ばあ)ちゃんと2人()らしで、無事に2人で逃げ込めたので……、家族全員無事でした。こんなふうに思う必要はないって分かってるんですけど……、ウチだけ家族全員無事で、(みんな)に悪いなって……、思ってました」


うん。『サバイバーズ・ギルト』ですね。自分だけが助かったことに罪悪感(ざいあくかん)を感じてしまうという。


「でも、それだけじゃないです。一家(いっか)(まる)ごと、たぶん、人獣(じんじゅう)にやられたんだろうっていう家族もいっぱいます。夜の出来事でしたし、突然のことで、最初は何が起きてるのか分かりませんでしたから……。最終城壁の中で姿が見えないから、たぶん、そうだろうっていう状態で……」


クゥアイは軽く目を()せた。そして、顔を上げて、強い視線で俺の目を見た。


「私には、将来(しょうらい)はきっと結婚するんだろうなって思う、幼馴染が……、あっ!!」


あっ!! じゃねぇ。


そんな、不味(まず)いワードを口にしてしまったみたいな表情(かお)はやめて。逆に傷つくから。


スイランさんたち3人も、手を止めないでね。密着(みっちゃく)したまま停止(ていし)されるのも、恥ずかしいですよ、こっちが。


「ご、ごめんなさい……!」


うーん、出来れば、ごめんもやめてねぇ。


「私、気が付かなくて……」


「うん、大丈夫だから、続けてね」


――くにゅ(左/背中)。


――むきゅ(上/左腕)。


――ぱにゅ(上/右腕)。


あ、そっちから再開(さいかい)するんだ。そろそろ、キレイになってると思うんですけどね。


あ、ツイファさん。そんな丁寧(ていねい)(あわ)()さなくても大丈夫ですよ。また、そんなにたっぷりと。どんだけ洗う(はさむ)つもりです?


ほら、シュエンがツイファさんの真似(まね)しちゃうじゃないですか。ほんとに仲良しになったんですね。良かったなぁ。


「……す、すみませんでした」


と、シュンとなったクゥアイ。


「うん、大丈夫。気にしないで。で、どうしたの? その、幼馴染が?」


「……()われました」


うん、状況は()頓狂(とんきょう)だけど、話がシビアなの分かってた。


「逃げる途中で、(おそ)われてるのが、部屋の(あか)りの影になって見えました……」


「うん……」


「お祖母(ばあ)ちゃんを連れてたし、私が行ったところで出来たことなんか、きっと、何もなかったんだろうけど……、(かたき)()ちたいです」


クゥアイはもう一度、顔を上げて強い視線を俺に向けた。


(あぶ)ないよ?」


「分かってます」


「今晩、屋根の上から見たよね?」


「はい」


(こわ)くなかった?」


「怖いです! だから、やります!」


男の人(チンピラ)たちと一緒にやれる?」


「私は毎日、畑で(くわ)()ってきました。言ったら悪いけど、あんなヘッピリ腰の男の人(チンピラ)たちに、負けるはずありません!」


うーん、決意は固いな。フーチャオさんが押し切られたのも分かる。


年は高1(16歳)可愛(かわい)らしい系の顔立ちに、引き()まったアスリートみたいな身体(からだ)だけど、つくりは華奢(きゃしゃ)健康的(けんこうてき)だけど、可憐(かれん)な女子と言ってもいいくらい。


でも……、ここまで強い意志(いし)志願(しがん)してきてくれてる人を断ると、後が続かなくなるような気もする。


――ここは、やっぱり、一番信頼(しんらい)できる人に(あず)けるか。


と、考えた俺はミンユーを呼んだ。



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