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75.反攻の日は近い(2)


「私も独身(どくしん)純潔(じゅんけつ)なら子種(こだね)(さず)けていただくのに、本当に残念ですっ!」


って、(ミオン)さん!? 旦那(だんな)さんを目の前にしてする話ですか、それ!?


いや……、フーチャオさんも、うんうん(うなず)いてるし。


同行してくれてる侍女のユーフォンさんも、護衛(ごえい)のメイユイも普通に世間話(せけんばなし)を聞いてる風情(ふぜい)だし。


「マレビト様が召喚された時代に、(せい)()けているなんて、なんて僥倖(ぎょうこう)是非(ぜひ)機会(きかい)(まい)りましたら、メイファンとミンユーを、よろしくお願いいたしますね」


若く見えるミオンさんは、スイランさんとはまた違った学級委員長タイプ。少女マンガで主人公を応援してそうな学級委員長タイプ。下品(げひん)なことなんか言いそうにない。


(むすめ)純潔(じゅんけつ)()()らずの男に()()すって、どんな母親だ!?」って思うのは俺の感覚(かんかく)で、これがダーシャン王国の一般的(いっぱんてき)()()()なんだろう。


ちょっと、眩暈(めまい)がする気がした。


ミオンさんは用事だと言って席を外し、フーチャオさんと向き合うと、昨日のお礼を伝えた。


フーチャオさんは「勝ったな」と、ニヤリと笑って、あとは何も言わなかった。


それから、戦闘に参加を志願(しがん)してくれる狩人(かりうど)さんの集まり具合(ぐあい)(たず)ねた。


「今の(ところ)長弓(ながゆみ)が6人、短弓(たんきゅう)が8人ってところだ」


「最初としては充分(じゅうぶん)ですね」


「そうか? そう言ってくれるなら良かった」


「最初から人獣(じんじゅう)全滅(ぜんめつ)(ねら)うのは無理があると思うんです」


「ふむ」


「剣士が一晩に相手をしないといけない人獣(じんじゅう)の数を、少し()らす。そういうところから始めたいって思ってます」


「と言うと?」


「たとえば、城壁の上に上がってくる人獣(じんじゅう)のうち、5体に1体を弓で仕留(しと)める。いや、最初は10体に1体でも、100体に1体でもいい。すると、剣士の負担(ふたん)が少し軽くなる。相手にする人獣(じんじゅう)翌日(よくじつ)(まわ)しただけになるかもしれませんが、夜が明ければ人獣(じんじゅう)は来ない。戦闘が終わる。一晩の負担は軽くなる」


「なるほどな」


「そうして、安定的に闘える状況(じょうきょう)を、まず、つくりたいなって思ってます。今はとにかく、ギリギリすぎると思うんです」


「よし、分かった。(みな)にも、マレビト様の考えを伝えよう。最初の実戦投入(たたかい)はいつだ?」


「明日の晩になるかと。かなりテスト的になるとは思うんですけど」


「分かった」


「あと、今晩(こんばん)に確認しておきたいことがあるんで、ミンユーをお()りします」


「ああ、それも分かった。なんでも使ってやってくれ」


「そうだ。南側城壁で投石してくれてる人たちなんですけど」


「おお。チンピラ連中な」


「別の武器を用意しようとしてるんですけど、そっちに回ってもらうことって出来ますか?」


「また、なにか考えてるな?」


と、フーチャオさんがニヤッと笑って、話してみようと言った。


帰り(ぎわ)に、(ミオン)さんが顔を出してくれて、まだ用事があったことを思い出した。タスクリストをメモっとかないといけないな、これ。


住民の(みな)さんの食事の改善(かいぜん)に、お母さんたちの力を()りられないかって聞いたら、むしろ喜んでくれた。


配給(はいきゅう)される食事の味が不安定(ふあんてい)なことに、だいぶ不満(ふまん)()まっていたようだ。


これで、住民の皆さんの()(しょく)(じゅう)の全部が(ととの)う。(みんな)の気持ちをひとつにって言っても、生活環境(せいかつかんきょう)が整わないと前向きな気持ちにはなれない。なにせ、長丁場(ながちょうば)になることが間違いない。


それから、司空府(しくうふ)にミンリンさんを(たず)ね、今朝(けさ)の「むにゅう」を思い出して2人で顔を赤くし、シーシの工房(こうぼう)(やり)試作品(しさくひん)を受け取った。


槍なんか使ったことないし、一度、自分で試してみないと、皆に使い方を説明できない。


鍋付き(サーチライト型)篝火の進捗(しんちょく)を確認すると、そもそも(なべ)が足りなくなってて、専用(せんよう)球体(きゅうたい)鍛造(たんぞう)されてた。マジすげえな、ツルペタ姉さん。


玉篝火(たまかがりび)と名付けたのだ!」


って、シーシが満面(まんめん)()みで宣言(せんげん)したので、公式採用(こうしきさいよう)することにした。


と、諸々(もろもろ)の準備や打ち合わせに()(まわ)るうちに、今日も日が()れた。


また、人獣(じんじゅう)たちがやって来る。


でも、反攻(はんこう)の日は近い。


俺は足早に、城壁に向かって急いだ――。



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