7.頑張ってる人には弱い(1)
シアユンさんに案内してもらった、本来は王族専用だという大浴場は広くて白くてキレイだった。
人獣たちが夜毎に襲撃してくるので、城内の生活は昼夜逆転している。今のうちに休むようにと言われて、風呂を勧められた。
シアユンさんは俺の話をベッドの上でとても真剣に聞いてくれて、最終的に涙をこぼされた。
幼馴染にフラれただけでもダメージ大きいのに、その話で泣かれると、解ってもらえた安堵より、正体不明のダメージの方がズシッときた。
――そうかぁ。共感されて泣かれるような話なのかぁ。
と、溜息のひとつも吐きたくなる。
その後で、俺を大浴場へ案内して廊下を歩くシアユンさんは凛としてて、スレンダーな立ち姿がスラリと美しくて、才女とか才媛って言葉がピッタリくるようなお姉さんに戻ってた。あれが、本来の姿なんだろう。
渡された手拭いに、ペースト状の石鹸を泡立てて体を洗う。経験のない肌触りでちょっと違和感があるけど、泡立ちは申し分ない。
第２城壁から逃げるとき、青髪のリーファ姫を抱き抱えて走った道は舗装されてなくて、雨でぬかるんでて泥だらけになってたし、汗もかいてた。流せばスッキリする。
絶体絶命のお城なのに、随分と静かで呑気な時間が流れる。広い浴槽から上がる湯煙に、朝陽の光線が差し込んで浴場全体が白く明るい。
異世界的には朝風呂だけど、俺の体内時計である日本時間では13時半頃のはず。眠れる気がしない。時差ボケに悩む異世界召喚話とか聞いたことない。俺が知らないだけだろうか。
とか、必死で関係ない話を考え続けるんだけど、油断すると体を洗う手が止まってて、里佳のことを考えてる。
フラれて推定２時間。まあ。しょうがないよな。
年上のお姉さん――シアユンさん――に話を聞いてもらって、少しはスッとするんじゃないかなんて期待したけど、今のところそんな気配はない。しっかり凹んでる。
異世界召喚って大事件が起きても気持ちが上書きされてない。どれだけ里佳のこと好きだったんだよ、俺。
「はぁ……」
と、何度目か分からない溜息を吐いたとき、背後からスルスルスルと音がした。
――スルスルスル？
振り返ると、大浴場の入口が開いてて、一糸まとわぬ姿のシアユンさんが立ってる。やっぱり、顔は真っ赤だ。
――だからぁ！ なんで無理するかな？ ほんとは、そんなキャラじゃないんでしょ!?
入口の戸を閉めたシアユンさんが、どう反応していいか分からず慌てる俺の前にオズオズと近寄って、膝を付いた。せめて、前を隠してほしい。目が泳いでしまうけど、なんとか声をかけた。
「ど、どうされました……？」
「マ、マレビト様……。半分……。半分、シキタリを守らせていただけませんでしょうか……」
「は、半分……？」
「い、今のマレビト様のお気持ちでは、こ、子種をお授けいただくことが難しいことは、よく分かりました……」
「あ、はい……」
「せめて半分。『純潔の乙女の身体を捧げる』という部分だけでも……」
なにを言ってるんだろう？ この人は――。
