6.ベッドの上での話(2)
シアユンさんの話の中には、何度も『シキタリ』って言葉が出てきた。この国の人たちは皆、祖霊から伝わる『シキタリ』を守って暮らしているらしい。
そんな『シキタリ』のひとつに、
――マレビトには純潔の乙女の身体を捧げ、子種を授かるべし。
というものがあるのだそうだ。
タイミング――。と、思わざるを得ない。それってどんなエロゲーですか? って『設定』だけど、まったくそんな気にならない。
もちろん、健全な男子高校生として、そういうコトに興味がないわけじゃない。男子の友達ばかりが集まるときには、そんな話もいっぱいしてきた。いつかは経験したいとも思ってる。なんなら絶対経験したいとも思ってる。でも、今じゃない。
今の俺は、気付いたら里佳のことばかり考えてる。
大学進学で距離が離れるのが怖かったのに、今はそれ以上に離れてしまった。むしろ、離れてしまったことにホッしている面もある。関係が変わるのがイヤで打ち明けて、関係を変えてしまったのは俺の方なのにホッとしている自分が情けない。
なんか、全部が虚しくて、いまいち心が働かない。現実感が湧かないというのとも、ちょっと違う。たぶん、まだ単純に、フラれたショックの方が大きい。シアユンさんの話も、召喚されたお城の状況も、『シキタリ』の話も、どう受け止めたらいいのか分からない。
「次は……」
と、俺が口を開くとシアユンさんが身構えた。丁重に扱おうとしてくれてるんだろうけど、話しにくいな。
「次は、俺の話を聞いてもらってもいいですか……?」
という、俺の言葉に、シアユンさんがコクリと頷いた。最初の印象では気品あるお姉さんって感じだったけど、今は引っ込み思案の女子みたいになってる。
「とりあえず、話しにくいので服を着てもらってもいいですか?」
と言うと、シアユンさんは「失礼しました……」と応えて、ベッドの下に脱ぎ捨ててあった黒いドレスを着始めた。改めて後姿を見ると、本当に腰が細くて、スレンダーでスタイルがいい。
シアユンさんの女性らしい丸い曲線に気を取られると、里佳の顔が思い浮かぶ……。
ああ。これは、当分の間、こんな感じが続くんだろうなと、ますます里佳に会いたくなった。合わせる顔がないのに、会いたい。うわー。なに、この感じ。
ドレスを着終わったシアユンさんは、しばらく躊躇っていたけど、もう一度、ベッドに上がり俺に向き合って正座した。
そうか。ベッドから降りて話をするという選択もあったよな。けど、いまいち体を動かす気力が起きない。
なにしろ、これから、初対面の綺麗なお姉さんに、つい1時間ほど前に幼馴染にフラれた話をしないといけない。城はあんなバケモノに囲まれてて、逃げ場もない。子種とか、今はとてもじゃないけど無理ですから。っていうのを納得してもらうには、結構細かく話さないといけないよな……。
まだ、里佳以外の女子のことなんか考えられないし……。
城の危機、国の危機、命の危機にあって、真剣な表情を向けてくるシアユンさんには、取るに足りないことかもしれないけど、俺には切実なことなんですよ。
大きく息を吸い込んでから、俺は、俺と里佳の話を始めた。