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54.大浴場の革命(3)


「こんなもんかな?」


と言ったメイファンは、俺の肩から手を(はな)して、背中の感触(かんしょく)もスッと離れた。


俺の頭の中では「むにゅん、むにゅん、むにゅん、むにゅん……」という感覚が、まだまだリフレインされていたけれども。


……ちょっと、落ち着こう。と、細く長くフーッと息を()き出す。


決して(イヤ)だったとは言うまい。頑張(がんば)ってくれたメイファンに失礼だ。それに、いつか日本に帰れて男子の友達に話せば(うらや)ましがられること必至(ひっし)のイベントだ。うん、そうだ。男子として夢のシチュエーションだ。……なんでも話せる里佳(りか)にも、この話は出来ない、男子の……。


とか考えてると、左腕(ひだりうで)違和感(いわかん)が。


「腕も洗ってあげるね! 前じゃないからいいよね!」


……う、腕が、はさまれてる……、だと。


スーイ、スーイと左腕を(やわ)らかな感触が、(あわ)(すべ)っていく。


も、もう……、好きにしてください……。


浴室いっぱいの全裸(ぜんら)の女子たちが、いつものキャッキャした感じというよりは、ザワザワした感じ、クスクスした感じで、こっちを見てるのが(わか)る。


メイファンは、なんか一生懸命(いっしょうけんめい)な表情で、なんなら少し顔に汗を()かべて、……頑張ってる。


左腕は終わったらしく、右腕も、むにゅんと柔らかな感触に(つつ)まれてから、その感触が、スーイ、スーイと滑っていく。


「うん! きれいになったよ!」


と、メイファンは達成感(たっせいかん)いっぱいの笑顔を俺に向けてきた。


「なんか、身体(からだ)(ささ)げてる感じする! ありがとう、マレビト様!」


いえいえ、どういたしまして……。


女子たちがクスクス何か(しゃべ)ってるけど、内容は俺の頭には入ってこない。その頭から(けむり)が上がってる感じがして、たぶん、顔も()()になってる……。


と、もう一度、メイファンが後ろから()()いてきた。背中には、むにゅんと……。


メイファンが俺の耳元に口を寄せて(ささや)く。


「今日は、()めてくれて(うれ)しかったの……」


「あ、うん……」


「いつか……、いつかね」


「……はい」


「いつか、マレビト様が子種(こだね)(さず)けてもいい気持ちになったら、絶対(ぜったい)……、私にも(さず)けてほしいなっ……」


ぷしゅう……、という音が俺の頭の中でするのが聞こえた。オーバーヒートです。シャットダウンします。


メイファンは俺の背中から(はな)れて、泡立(あわだ)ってる手拭(てぬぐ)いを俺に手渡(てわた)し、スススッと恥ずかしげに俺から離れて行った。


こそこそと身体(からだ)前面(ぜんめん)を洗って、()(あわ)を流す。


女子たちはすっかりいつものキャッキャした感じに(もど)ってる。


――あー、ビックリした。


まだ、背中に腕に、メイファンの感触(かんしょく)がたっぷり残っててフワフワしてたけど、立ち上がって湯船(ゆぶね)に向かう。


緑髪(みどりがみ)の女剣士イーリンさんの姿を見つけて、(となり)(こし)()ろして湯に(つか)かった。


なんか、こう、見られてたっ! っていう気持ちもあって気恥(きは)ずかしいんだけど、顔にバシャバシャっと湯をかけてから、イーリンさんに話しかけた。


「今日の戦闘で、色々、邪魔(じゃま)じゃなかったですか?」


という俺の言葉に、イーリンさんはニッコリ笑って返してくれた。


「ええ。大丈夫でした」


メイファン()より、少し立派かもしれないイーリンさん()が目に入るけど、今は背中に腕に残った感触のせいか、あまり気にならない。それも初めて体験する感覚で、まだ少しフワフワする。


「今晩も、イーリンさんの剣技(けんぎ)が美しくて、見惚(みと)れてしまいました」


と、俺が言うと、イーリンさんは、はにかんだ笑顔を見せたけど、少し何か言いたそうでもある。ややあって、苦笑(にがわら)い気味に話し始めてくれた。


「マレビト様に申し上げるほどのことでもないんですが……」



本日の更新は以上になります。

お読みくださりありがとうございました!


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