52.大浴場の革命(1)
最大光量でテストしたかった鍋付き篝火の薪が燃え尽きたのは、夜明け前だった。望楼の扉という扉を開け放ってたけど、なかなかの暑さになってた。
シーシが止まらない汗を拭いながら聞いてきた。
「これ、火を消す仕組み要るかなぁ? どう思う? マレビト様」
「今は、ほしいけど、実際には要らないんじゃないかなぁ……? 結局、一晩中、使うことになる訳だし」
「そうか……、そうだね」
「もし、闘いが対人間だったら、明かりを消して暗がりからの攻撃で、敵の意表をつくなんてこともあるかもしれないけど、相手が人獣では、暗いところで意表をつかれるのは人間の方だ」
「おもしろいね!」
「おもしろい?」
「うん、おもしろい! 戦場で動く人間のことを考えて物を作ったことなかったから、すごく、おもしろい! そうかぁ、ボクの腕が戦場に役立つこともあるんだね」
ニシッと笑うシーシの笑顔に、ひとりの職人少女を武器商人に目覚めさせてしまったような、複雑な気持ちで笑顔を返した。
だけど、大勢の命が危険に晒されている今、平和ボケした感覚のままでいるのもダメだ。頼もしい味方が、もっと頼もしくなってくれてるんだから。
朝日が差し込むと、人獣たちの活動は低下し、城壁の上に残っていた人獣を掃討すると、剣士たちは歩哨に立つ数名を残して撤収し始めた。緑髪のイーリンさんも城壁を降りていくのが見えた。
剣士たちと入れ違いに、宮城の北側から威勢のいい声が聞こえてきた。見ると、親方のようなおっさんたちが材木を担いでいる。
――避難してる皆さんの、仮設住宅の建設が始まるのか!
仕事の速いミンリンさん、必要資材を素早く用意してくれたスイランさんに、感謝の気持ちでいっぱいになった。
積み上げられた材木を、別のおっさんたちが、みるみる組み上げていく。
――寸法に合わせて切ってあったのか。
本当に司空府の職人さんたちが、ちゃんと寝れてるのか心配になるけど、ありがたい。
いや、一晩中、人獣の唸り声や激しい戦闘の音が響く中で、寝れる訳ないか。夜の間に作業してしまう方が、気が楽なのかもしれない。
シーシは神経が太いから夜に寝れてるって言ってたけど。
と、仮設住宅の建設現場で、図面を手に指差しながら指示を飛ばしてるシーシの姿が目に入った。
振り向くと、さっきまでいたはずのシーシの姿がない。いつの間に移動したんだか。
建設現場でシーシは駆け回りながら、大きな身振りでおっさんたちに指示を飛ばしてる。楽しくて仕方ないんだな。ありがたい限りだ。この危機を生き残れたら、いつか、なにか恩返しをしたい。
鍋付き篝火は熱々のままで、とても触れる状態じゃないので、このまま望楼で冷ますことにした。
さすがに疲れたので、とりあえず風呂に入って寝よう。
まあ、その風呂がアレではあるんだけど……。
望楼から大浴場に向かう道々、今日のことを思い返す。
最終城壁の外側を明るくする手段にメドがついた。これで、弓矢で人獣に攻撃することが現実味を帯びてきた。
メイファンの長弓を見せてもらえて、弓の射程距離も分かった。狩人全員かは、まだ分からないけど、少なくともメイファンの力量も確認させてもらえた。
戦闘の主力のひとつにまで育つかは分からないけど、少なくとも剣士の闘いの援護をすることはできるはずだ。もちろん、使い方によるだろうけども。
それから、明日は――。
と考えているうちに大浴場に着いて、服を脱ぐ。浴室からは既にキャッキャと女子たちの声が響いてる。
横を向くと、メイファンとミンユーも服を脱いでいる。ブルンッと、2人の立派なのが同時に服の下から姿を現した。
慌てて目を逸らしたものの、しっかり目に焼き付いてしまった。頭の中が4つの膨らみのことだけでいっぱいになって、顔がパアッと赤くなる。
ぬ、脱いでくとこ見るのは、最初から全裸の女子を目にするのとは、また種類の違った刺激が……。
今日の俺の顔は、赤くなったり青くなったり忙しい……。
あれ――? 俺、今、何を考えてたんだっけ……?
本日の更新は以上になります。
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