48.悪い報せ
「悪い、報せというと……?」
俺は、恐る恐るフェイロンさんに問い返した。
「剣士団に備えられていた『治癒』の呪符が効力を失いました」
そんなものがあったのか。傷を負う剣士も多いだろうし、大きな問題だろうな……。
「王都の呪術師が刻んだ呪符でした。つまり、王都で呪術師の魂が祖霊の下に旅立ちました」
俺の後ろでユーフォンさんが息を呑んだ。
「それだけで王都の状況は断じられませんが、王都からの救援が望めないことは確かでしょう。それが、当分の間なのかどうかも判断しかねるところです」
そうか。呪符をつくった呪術師が死ぬと、呪符も働かなくなる。
ジーウォ城で大浴場の湯が沸き続けていることが、リーファ姫の魂が生きてることを示唆しているのとは逆に、王都の呪術師が死んだってことを表してる訳か。
この状況、この話し振りで、寿命でしたってオチとは考えにくい。王都にも異変が起きてるって考えた方が自然だ。
「我らだけの力で、立ち向かうほかありません」
「分かりました」
自分の顔が赤くなってることが分かるのは、異世界に来てから何度も経験してたけど、このときは初めて、青くなってるのを感じてた。
王都には行ったことがないし、どんな所かもピンと来てないけど、ひょっとしたらの救援を考えたことがない訳じゃない。
けど、その可能性は限りなく低くなった。少なくともフェイロンさんは、そう判断してる。
「ただし」
と、フェイロンさんは俺の方に向き直った。
「この情報が城内に広がると、住民たちが恐慌をきたす恐れがあります」
デマで処分されそうになって、フーチャオさんが預かった、子犬のことを思い出してた。充分に考えられることだ。
「いずれ漏れることは避けられないでしょうが、当分の間は、限られた人間だけに止めておく方がよろしいかと」
「分かりました」
「侍女殿も、そのように」
という、フェイロンさんの言葉に、ユーフォンさんがやはり青い顔をして頷いた。普段、明るくて華のあるユーフォンさんの青ざめた表情に、事態の深刻さが改めて突き刺さる。
剣士府を辞して、ユーフォンさんと2人青い顔で望楼に向かう。
行く前は、フェイロンさんが幼馴染にフラれたという話を聞けるかな? なんて、呑気なことも考えてたけど、出る頃にはすっかり忘れていた。
真っ直ぐ望楼に向かおうとしたけど、いつもの明るさと華を取り戻してたユーフォンさんから強く勧められて、一度、自分の部屋に戻ることにした。日没まで、もう少し時間がある。
よっぽど、ひどい顔をしてたんだろうな。俺。
俺の部屋の奥にある寝室の手前の部屋、つまり前室に入ると、衛士のメイユイがウキウキと布団の準備をしていた。
メイユイ?