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47.繋ぐ役割


フェイロンさんの執務室(しつむしつ)には、緑髪(みどりがみ)の女剣士イーリンさんもいた。(まど)の外の茜色(あかねいろ)の空と、少し黄色く光る緑色のポニーテールとの対比(たいひ)に、一瞬(いっしゅん)、目を(うば)われた。


俺が鍋付き(サーチライト型)篝火(かがりび)で、望楼(ぼうろう)から最終城壁の外側を、テストで()らしてみたいことを伝えると、フェイロンさんは少し考えてから口を開いた。


北側(きたがわ)城壁(じょうへき)にしましょう。北側の方が、やや人獣(じんじゅう)の攻撃が(ゆる)やかだ」


「分かりました」


「イーリン」


「はっ」


「今晩から北側城壁の指揮(しき)は、お前が()れ」


「かしこまりました」


「マレビト様。北側城壁のことは(わし)を通さずとも、イーリンに直接(もう)()けてください」


うわぁ、重いな。と、思ってしまった。配慮(はいりょ)(うれ)しいのもあるけど、『(もう)()けろ』というのは、剣士団の長であるフェイロンさんに()わって指示(しじ)しろってことだ。


少なくない人数の剣士さんたちが、俺の指示でも動くことになる。ただ、責任の重さに(ひる)んでられない状況(じょうきょう)でもある。


戦闘中の()()というとき、主に南側城壁に陣取(じんど)ってるフェイロンを通すとなるとワンテンポ遅れる。フェイロンさんが意図(いと)していることも(わか)る。


俺は(かた)に重さを感じながら、フェイロンさんに(うなず)きを返した。フェイロンさんが続ける。


「イーリンには、今朝(けさ)のマレビト様からのお話を伝えてあります」


今朝? ……そうか。昼夜(ちゅうや)逆転(ぎゃくてん)生活になってて、睡眠(すいみん)をはさんでるから分かりにくいけど、フェイロンさんに「狩人(かりうど)を攻撃に加えたい」って言ったのは、今日の朝日を見ながらだった。あれ、まだ今日の朝のことか。


「と言っても、(すで)にイーリンの耳には入っておったようですが」


ええ。女子たち(みんな)全裸(ぜんら)大激論(だいげきろん)ってことになって、イーリンさんには居心地(いごこち)の悪い思いをさせてしまいました。当事者(とうじしゃ)の剣士であるイーリンさんからは、なにも言いにくかったですよね。


イーリンさんも、フェイロンさんの言葉に少し苦笑(にがわら)いを浮かべて、(うつむ)いている。


「分かりました。イーリンさん、よろしくお願いいたします」


「はっ」


そして、そのままイーリンさんに向き直った。最初の指示くらいは、フェイロンさんに立ち会っていてほしかった。


望楼(ぼうろう)から出る光は、北側城壁の真ん中あたりを(ねら)うつもりです。万一(まんいち)、何かがあっても剣士さんたちが左右両方からカバーできるようにするためです。今晩は光を上下に動かすことはあっても、左右に動かすつもりはありません。なので、出来るだけ気にせず、目の前の戦闘に集中してほしいです」


「かしこまりました」


「それと、今晩はテストだけのつもりなので、(まき)()()きたら消えます。また、上手くいかなくて光が(とど)かない場合も考えられるので、本当に気にしないでほしいです」


(みな)に、そのように伝えます」


剣士は(みな)さん、卓越(たくえつ)した剣技(けんぎ)一晩中(ひとばんじゅう)闘い続けるけど、俺なんかでは想像できない緊張状態(きんちょうじょうたい)にずっと置かれてるはず。出来るだけ、集中力を()ぐようなことはしたくない。


けど、色々テストもしたい以上、()()ることを事前に出来るだけ伝えておくのがベターだと思う。


「上手く光が最終城壁の外まで届いたら、矢が届くかのテストもしたいと思ってます。それで、狩人(かりうど)の一人を呼んでます」


と、考えてることを全部伝えてから、最初のアイデアを伝え忘れてたのに気が付いた。フェイロンさんの方にも向いて説明した。


「あ。これ、元々は篝火(かがりび)に屋根を付けたいってアイデアから始まってるんです」


篝火(かがりび)に屋根を……?」


と、フェイロンさんが少し目を細めた。


「はい。次の雨がいつ来るか分かりませんけど、司空府(しくうふ)職人(しょくにん)さんたちに頑張ってもらって、なんとか間に合わせたいと思っています」


「それは助かりますな」


と、フェイロンさんが(うな)った。


ジーウォ城の最高幹部(さいこうかんぶ)会議である『三卿(さんきょう)一亭(いってい)会同(かいどう)』で村長(むらおさ)のフーチャオさんが「俺達が話し合って決めるなんてことは一切なかった訳だ」って言ってたのが耳に(よみがえ)る。


つまり『豪雨(ごうう)()うと、篝火(かがりび)の明かりが弱まる』という、剣士団の課題を、司空府(しくうふ)把握(はあく)してなかった。


剣士団と司空府(しくうふ)の仲が悪いという訳じゃなくて、そういう仕組(しく)みになってる。そこを(つな)ぐのが、俺の最初の仕事になる。


たぶん、これまでは城主さんが()たしてた役割で、急遽(きゅうきょ)代理(だいり)になったリーファ姫も、出来る限りのことはやっていたはずだ。


でも、大人には立場(たちば)面子(めんつ)もある。身分差(みぶんさ)がハッキリしてるこの国では尚更(なおさら)だろう。


ここは高校生(こども)らしく、「分からないから、助けてください」って態度(たいど)で行けるところまで行くしかない。それで壁に当たったら、また考える。


高校の文化祭でクラスの出店(でみせ)企画(きかく)したときは楽しかった。クラスの同級生たちを適材適所(てきざいてきしょ)配置(はいち)して、うまく(まわ)せたときは気持ち良かった。


事態(じたい)深刻度(しんこくど)比較(ひかく)にならないけど、同じに考えるくらいの気構(きがま)えでないと、自分が(つぶ)れてしまいかねない。


慎重(しんちょう)に、大胆(だいたん)に。明日はあるか分からない。本当の意味で、明日があるのか分からない。今日できることは、今日やってしまおう。


そんなことを考えていると、イーリンさんを下がらせたフェイロンさんが、窓の外の夕焼けを見ながら口を開いた。


「悪い(しら)せです」



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