46.気分が乗ると
せっかくなので、鍛冶場と冶金場を見学させてもらった。
金属を熱して叩いて伸ばして成形する鍛冶と、金属を熱で溶かして鋳型に流し込んで成形する冶金。
異世界の技術を確認したいって気持ちもあったけど、実際に現場を見てみたいっていう、興味の方が勝ってた。
「これは、薪を燃やしてるの?」
と、俺が聞くとシーシはニシシと笑った。
「リーファ姫に熱の呪符をいただいたんだ」
「えっ? じゃあ、これは呪術で?」
「そう。だから燃料切れを気にしなくて良くなったんだ!」
あの大浴場の心地いい湯を沸かしてるだけじゃなくて、金属を溶かせるような熱も出せるのか。
と、シーシは少し寂しそうな表情を浮かべた。
「まだ使えてるから、リーファ姫の魂もまだこっちにいるんだよ。まだ祖霊の下には向かってないんだよ……」
「そうだな」
「うん……」
シーシは、寂しさを打ち消すように、俺の方を向いてひとつ、ニシッと笑った。
俺は少し考えてから、シーシに質問してみることにした。
「つかぬことを、おうかがいしますが、シーシさん」
「なんだね、なんだね?」
「その呪符に余分はあったりします?」
「うん、あるよ。余分っていうか、使ってないのが3つくらいあったはずだよ」
「借りたりできます?」
「もちろん、大丈夫だよ。使ってないしね」
と言うと、シーシは奥から紐で固く縛ってある平たい木箱を持って来てくれた。
「中に入ってる呪符は二つに折りたたまれてるけど、開くとスグに熱が出始めるから、取り扱いには気を付けてね」
あっ……、と思って、俺は固まってしまった。
「どしたの?」
俺は自分でやろうとしてたけど、どう考えてもシーシにやってもらった方が、速くて確実だ。でも、これ以上、仕事を頼んでもいいものか……?
不思議そうに俺を見てるシーシの顔を見て、遠慮してる場合でもないなと思った。
今朝見た夢で、里佳が「みんなを頼ればいいよ」って笑ってたのも思い出してた。今日は一日が速くて長い。色々、やることや考えることが出来たお蔭だ。
「熱湯を沸かしたくて」
「熱湯?」
「人獣にぶっかけてやりたくて」
「ニシッ! いいね! ぶっかけてやろう!」
「最終城壁の上か近くで沸かして、運ぶなりしないといけないと思うんだ」
「ふむふむ。それは、そうである」
気分が乗ると、変なキャラが入るんだな……。
「頼んでもいい?」
「もちろんである! 任せておきたまえ!」
と、シーシは自分の胸をボンっと叩いた。頼もしいツルペタ姉さんです! ……むせてますけど。
「あと、すまない。もう一つ、いいかな?」
「けほ、けほ。……なんであるかな?」
「あの、鍋付き篝火を今晩、望楼から使ってみたいんだけどいい? 出来てるところまででいいから」
「承ったのである! けほ」
シーシに深々と頭を下げてお礼を言い、俺はユーフォンさんと一緒に、剣士府にフェイロンさんを訪ねた。
空はすっかり茜色に染まっていたけど、日没までは、まだ少し時間がある。
本日の更新は以上になります。
お読みくださりありがとうございました!
もし気に入っていただけたり、おもしろいと思っていただけたなら、
ブクマや下の☆☆☆☆☆で評価していただけるととても励みになります。