45.薄暗い部屋が悪い
鉄製の三本の棒が斜めに組み合わされて、鉄製の籠を支えてる。その後ろと両側面、それから上に鍋が見たことのない金具で繋がれて取り付けられてる。
見た目は不格好だけど、イメージ通りだ。しかも、鍋の内側がピカピカに磨き上げられてる。
「司空府には磨き師もいるからね！ 祖霊祭祀に使う祭具や、王族や城主様のお部屋の装飾、剣士の鎧なんかをピカピカに磨き上げる人たちだから、腕はいいよ！」
そういう職人さんもいるのか。いろんな知恵が組み合わさってる。
「んじゃあ、早速、点けてみるね」
と、シーシはランタンから取った火を、鉄籠の中の薪にあてる。油がかけてあるのか、スウッと火が燃え広がる。
そうか。篝火のテストのために部屋を暗くしてくれてたのか。迂闊にも気付かなかった。
薪がパチパチッと音を立て始めて、炎が大きくなると、部屋の反対側で、光が円型にボヤっと浮かんだ。
出来てる！ ほんとに出来るのかと思ってたけど、思った以上にサーチライト！ すげえ。チビッ子姉さん、最高っスわ！
右に左にグルグル回って、サーチライト型篝火の試作第１号を細かく眺める。
「どう？」
と、シーシが聞いてきた。
「スゴイです。正直、ビックリしました」
「ニシシ。でしょ？ でしょ？」
「はい」
シーシは満足そうに胸を張って、はにかんだ笑顔を見せた。いや、すげえっスわ。なにより、速いのがスゴイ。……ツルペタ姉さん、尊敬しますわ。
「もちろん、まだ改良しないといけないのだ」
「と言うと？」
「一番は、鍋が重くて、倒れやすいのだ」
「なるほど」
「鍋を薄くするか、足を補強するか。どっちがいいか試したくて、追加の鍋をスイランに融通してもらったのだ、内緒で。まあ、たぶん両方やった方がいいのは分かってるんだけどね」
「それなら、俺からもいいですか？」
「もちろんなのだ！」
シーシの口調が天才のパパみたいになってるのは、気分が高揚しているからなのか。
「鍋の取り付け角度を調整すれば、もう少し光量を上げられるんじゃないかと思って」
「ほうほう」
と、シーシは俺の話に目を輝かせた。ミンリンさんといい、向学心旺盛なのは見習いたい。それに、ガンコな親父さんタイプの職人でないのはありがたい。
俺は紙と筆を借りて、入射角・反射角を計算して側面や上面に向かう光を後ろに集めれば、さらに光を前に向いて飛ばせるはずだと説明した。
「なるほどなのだ。入射角、反射角。初めて聞く考え方だけど、感覚的にもバッチリ分かるのだ！」
「それから、空気の通り道を、下から上に綺麗に流れるようにすれば、火の勢いを維持しやすいんじゃないかと思います」
さすがに大学受験レベルの物理では、流体力学的な知識までは身に付いてない。流体力学かどうかも分からないのだけど、とにかく、炎に酸素を供給する空気の流れ道は、感覚でどうにかしてもらうしかない。
「分かった！」
「それから、出来れば首を振れるように出来たら使いやすい」
「うーん。それはそうだね」
パパ口調でなくなったのは、頭がフル回転し始めたからなんだろう。篝火とランタンの明かりで照らされる、シーシの真剣な表情が美しい。
頑張ってくれてる。俺の言葉で。
応援するだけじゃなくて、結果を出したい。
俺の書いたメモと篝火とを、真剣な表情で見比べるシーシの姿に、風呂場での姿を重ねそうになるのを「今はよせ、俺。今それは、最低だ」と、必死で自分に言い聞かせてた。
薄暗い部屋と、ボディラインのハッキリ分かるチャイナドレス風味の服が悪い……。
