41.愛おしい図面(1)
フーチャオさんとの話し合いの後、メイファンとミンユーに頼んで、宮城の望楼に一緒に昇ってもらった。
平民のメイファンとミンユーが入れる場所ではないらしく、緊張しながらも興味津々といった様子だ。
「あそこ。あそこ見て」
と、俺は第2城壁が建ってる根元を、指差した。ウロつく人獣たちの姿も見えてる。
「メイファンとミンユーの弓は、あそこまで届きそう?」
「私は余裕かな? うん。あ。私は長弓が得意だから、遠くまで飛ばせるの」
と、メイファンは俺が指差したあたりを眺めながら、答えてくれた。
「私の短弓では届かない」
と、淡々と答えるミンユーの言葉に、メイファンが明るい声を被せる。
「でもね! ミンユーの弓は連射がスゴイから、狩りに出たらいつも一番いっぱい、獲物を仕留めるんだよ!」
と、メイファンがミンユーの背中をバンバン叩きながら言った。
「あ。取ってこようか? 私の長弓。届くところ見たいよね?」
「ううん。今はやめとこう。人獣の生態はハッキリしないし、刺激して、もし暴れ出したら、剣士は休んでるし困ったことになるから」
「そっか。分かった」
「夜。弓を持って、夜に来てくれない? 夜に確認しておきたいことがあるんだ」
「そうなんだ。いいよ! 夜にまた来るね」
「ツイファさん。夜に2人が来ても望楼に通してもらえるように、手配をお願いしてもいいですか?」
俺の頼みにツイファさんは、かしこまりましたと言って、軽く頭を下げた。
ツイファさんが2人を送って行ったので、替わりに俺に付いてくれた橙髪のユーフォンさんと一緒に、宮城の西に張り出してる『司空府』に向かった。
侍女のうちの誰かが、常に横にいてくれるのは安心で助かってる。
緊急事態だから召喚されて、いつのまにか命運を握らされてる感じになってるけど、異世界に来て、まだ5日目。分からないことの方が多い。
なかでもユーフォンさんは、ケラケラよく笑って、明るい。「腰抜け」を褒め言葉だと思い込んでたり、抜けてるところはあるけど、一緒にいると気持ちが軽くなるところがある。
本来の俺は、全体像を把握してから物事を動かしたいタイプだけど、今の状況では、そんなことは言ってられない。結果的に、人獣という大きな不安に加えて、全体像が分からないまま行動することに、いつも小さな不安を抱えている。
ユーフォンさんと一緒にいると、そんな小さな不安をかき消してくれるような、華やかさがある。
司空府で司空のミンリンさんの部屋に通されると、あっちにもこっちにも複雑な図面が山のように吊るされていた。
「お運びいただいて、恐縮です……」
……土木好き黒髪インテリ巨乳陰キャ女子。最初に受けた印象は当たらずとも遠からずか。
山というか壁のようになった図面を眺めながら、ミンリンさんに向かい合って腰を降ろした。




