4.赤く染まる顔と部屋(2)
シアユンさんのスレンダーな肢体がほぼ見えてて、胸の先端も、細い布地にちょっと覆われてるだけの姿に、さすがにドギマギしてしまって、顔を背ける。
俺に用意したという部屋は広くて、置かれた家具もなんだかピカピカしてる。窓の外から見える空は白み始めてた。
「マ、マレビト様には、じゅ、純潔の乙女の身体を捧げ、こ、こ、子種を授けていただくのが、王国に伝わるシキタリでございます……」
と言う、シアユンさんの顔をチラ見すると、瞳の色に負けないくらいに真っ赤になってる。いや、無理してますよね? あなた、無理してますよね? ていうか、子種――!?
やっほい! ラッキー! 異世界最高! エロイベント大歓迎! ……ってキャラでは、俺はない。
いや、『なかった』という方が正しい。実際にこんな場面に出くわすなんて思わないし。自分がこんな風になるなんて知らなかった。たぶん、俺の顔もシアユンさんに負けないくらい赤くなってる……。
「わ、わたしは……」
と、シアユンさんはたどたどしく話を続ける。
「歳は21ですが、じゅ、純潔を守って参りました……。どうか……」
3つも年上のお姉さん。そっちに照れまくられて、こっちも照れないワケないでしょう。
その時、朝焼けの光がサッと部屋に差し込んで、シアユンさんの綺麗な白い肌の輪郭が、柔らかな赤色に染まって、さらに全体がよく見える。
里佳や青髪のお姫様みたいな豊かな胸ではなく、控え目な膨らみもバッチリ見えてる。スラリとしたお腹のおへそも目に毒だ。
「と……、とにかく……」
と、俺は顔を伏せて手を前に差し出して、声を振り絞った。
「い、一回……、落ち着きませんか……?」
シアユンさんは、しばらく躊躇ったあとで、諦めたのか解ってくれたのか、ベッドの上の俺の足下に、ちょこんと正座した。顔は真っ赤に染まったままだ。
首から垂れ下がるツヤのある黒色の細い布地が、胸の先端をわずかに覆って、おへその随分下で繋がってスカート状に膝のあたりまで被さってる。
スカートと言っても、両脇には腰の上まで大きな切れ込みが入ってて、太ももがほとんど見えてる。
これは、なんて服? 下着? ボディラインが丸分かり。細い。細いけど痩せてるってワケじゃなくて、均整がとれてて、……これがスレンダーか。いや、そうじゃなくて。
――まったく、状況が分からない。
こんな不親切な異世界転移があるだろうか。まだ、なんの用件で召喚されたのか説明もされてない。たぶん、あの虎や狼のバケモノと闘わされるんだろうけども、だ。
シアユンさんの肌に触れないように気を付けながら、そっと脚を引いて身体を起こし、俺もベッドの上に正座した。とりあえず服を着てほしかったけど、顔を真っ赤にしたままのシアユンさんに、それを言うのも気の毒に感じてしまった。
不意に里佳の顔が思い浮かぶ。まだ、フラれてから30分も経ってませんよ? そんなところに迫られましてもですね……。
俺が溜息をつくと、シアユンさんがビクッと身体を震わせた。あ、違います、違います。あなたのせいではありませんけど、あなたのせいです……。
「ちょっと、状況が分からな過ぎるので、少し説明していただけるとありがたいんですが……」
日本で出会ったら露出狂かと思うような格好で、顔を真っ赤に染めるシアユンさんも、シアユンさんなりの覚悟を決めて来てるんだろうと思い直して、できるだけ丁寧な口調で提案してみた。
しばらくの間、モジモジとしていたシアユンさんが顔を上げて、紅色の瞳で俺の目をまっすぐに見詰めた。今はもう、カラコンではなくて天然なんだと分かる。
シアユンさんの小さな顔はモデルさんのようでもあったし、整った顔立ちからは気品を感じる。街ですれ違えば、目を奪われて立ち止まってしまうような美人さんだ。
やがて、シアユンさんは、その露出の多すぎる格好とは不釣り合いな、真剣な表情になって、意を決したように口を開いた――。