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3.赤く染まる顔と部屋(1)


黒髪のシアユンさんに案内された部屋で、ベッドに突っ伏してしまった。


要するに〈異世界〉に来てる。


のだろうけど、状況に混乱し過ぎて、思わず人生を振り返ってしまう――、



俺、百海(どうかい)勇吾(ゆうご)は、生まれたときから宗国(そうこく)里佳(りか)と家が隣同士。


物心ついたときには、すぐ側にいた。


なんなら、覚えている最初の記憶でも、俺は里佳と遊んでる。


町工場を経営している俺の両親と、10店舗ほどの飲食チェーンを経営してる里佳の両親も、経営者同士で気が合うのか、ずっと仲良しだ。


幼い頃の俺と里佳と、両方の母親と、4人で撮った写真が、たくさん残ってる。


中学に入った頃には、子供の手が離れたと思ったのか、両家とも母親が会社の一線に戻ってて、帰りが遅くなった。


お互い一人で過ごすよりはと、どちらかの家で一緒に晩御飯(ばんごはん)を食べるのが日常になって、そのまま一緒に宿題をやったり、映画やドラマを観て過ごすことも多かった。


兄弟もおらず、親も家を()けがちな子供時代に、一度も寂しいと思わなかったのは確実に里佳のおかげだ。なんでも話したし、なんでも話してくれた。


高校の受験勉強も、毎晩どちらかの部屋で一緒に頑張った。数学の苦手な里佳に、俺がよく教えてやってた。


苦手科目に悪戦苦闘しながらも、俺の説明に「分かった!」と顔を上げた笑顔にドキッとしたのが、たぶん、異性として意識し始めた最初なんだと思う。


同じ高校に進学して、高校の友達も夫婦(めおと)扱いでお互い恋人が出来ることもなく3年間を楽しく過ごした。2人の間に、付き合うとか、恋愛めいた雰囲気は一切なかったけど、とにかくどこに行くにも一緒だったし、夜もほぼ一緒に過ごした。


いつも下らない話や、一緒に観た映画の感想なんかを言い合って、笑い合ってた。お互いの両親の誕生日プレゼントを一緒に買いに行ったり、夏はプールも花火も一緒に行った。


街を歩いてすれ違う男は里佳に振り返るようになってたし、高校でも3本の指に入る美人って言われてて、俺もなんとなく鼻が高かった。


(うらや)ましがる男子もいたかもしれないけど、俺達の耳には入ってこなかった。そのくらい2人一緒にいることを、周りも自然に受け入れてた。


里佳は数学や物理が苦手なくせに、どうしても医学部に進学したいと受験勉強を頑張って、少し偏差値の低い県外の大学に無事合格した。


俺も一生懸命、里佳の勉強を手伝ったから、一緒になって喜んだ。けど、地元の大学の工学部に進学を決めていた俺は、急に里佳と離れ離れになることが怖くなった。


今まで電話するより直接会う方が早いので、電話やチャットアプリで雑談をしたことはなかった。


暇になれば、連絡もせずに会いに行って、そのまま二人でダベッてた。


そんな関係が終わる。純粋に距離が(へだ)てる。そして、急に――里佳が、ほかの男のモノになるのはイヤだ――という気持ちが()きあがって、それをどうしても(おさ)えることが出来なかった。


俺を恋人にしてほしかった。里佳を恋人にしたくて、たまらなくなった。たぶん、心の奥底ではずっとそう思ってたんだろう。


――まあ、フラれるにしても笑い話が増えるだけだ。


と、俺は自分の気持ちに(ふた)をしない理由を見付けることに必死になってた。


そして、高校生活の最後の最後、卒業式のあとに里佳を呼び出した。恋人になってほしいという想いを告げて、泣かれて、謝られて、フラれた。


俺が、里佳を裏切ったような気持ちに襲われて、目の前が真っ白になって――、


異世界に召喚されてました。



いや、最後だけおかしい……。


とか、寝転んで考えてた俺。


気づけば、長い黒髪で(あか)い瞳のシアユンさんが、ドレスを脱いだ『あられもない姿』でのしかかろうとしてた。


「いや、ちょっと……! なにしてるんですか!?」


夜明けの部屋は白々とほの明るくて、眉を寄せ、(ほお)紅潮(こうちょう)させて()つん()いで近付いて来るシアユンさんの顔がよく見える。


いや、それ以外にも、なんか色々見えちゃってますけど――!?

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