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27.立ちはだかるのは……


俺は咄嗟(とっさ)に足元の石を拾って、最終城壁上の獅子(ライオン)人獣(じんじゅう)に投げ付けてた。拳大(こぶしだい)の石は人獣の頭に命中して、動きを止めてこっちを見る。


その(すき)に、バランスを崩してた小柄(こがら)でオレンジ色の髪をした剣士が、むしろ体勢(たいせい)(しず)めて下から剣を突き上げ、人獣の(あご)から脳天(のうてん)(つらぬ)いた。


日没から(すで)に6時間は()った。今夜も果てしない人獣と剣士たちとの戦闘が、宮城(きゅうじょう)を取り(かこ)む最終城壁の上で断続的(だんぞくてき)に続いている。


空が茜色(あかねいろ)()まる頃、城壁の下から観戦したいのだけど、どう思うか? と、フーチャオさんに(たず)ねた。視線をより鋭くしたフーチャオさんが、少し考えてから「南側だな」と、言った。


「人獣からの攻撃は最も激しいが、剣士長のフェイロンが陣取(じんど)ってる。あいつの側に居るのが一番(かた)いな」


という、フーチャオさんの助言(じょげん)()れて、日没前に南側城壁の下に向かった。同行を申し出てくれたフィーチャオさん、衛士のメイユイ、それに報せを受けたであろうシアユンさんも合流して、戦闘が始まるのを待った。


フェイロンさんは軽く一礼しただけで、特に何も言わなかった。


それでも充分に距離を()けた位置に立っていたけど、間近(まぢか)()る人獣の迫力は尋常(じんじょう)ではなかった。最初の3時間くらいは鳥肌が立ちっぱなしだった。


5時間くらい経った頃だろうか、一体の虎型人獣が剣士と剣士の間を滑抜(すりぬ)けて、城内に飛び降りた。俺の全身が総毛立(そうげだ)った瞬間、俺の側に立っていたはずのフェイロンさんが城壁の真下で、虎型人獣を斬り捨てていた。


目にも留まらぬ早業とは、このことだった。フェイロンさんは何事もなかったように、俺の側に戻って来る。城壁上の篝火(かがりび)を逆光に受けて歩く姿は、シンプルにカッコ良かった。


やっぱり、男子として少し血がたぎってしまってたんだと思う。


オレンジ髪の剣士が「危ない!」と思った瞬間に、体が勝手に動いてた。命中したのは中学での野球経験のお陰だと思う。剣士は一瞬だったけど、俺を激しく(にら)み付けた。


「ダメですよ! 剣士の闘いは厳粛(げんしゅく)なものなんですから!」


と、メイユイが大きな声を上げた。やっぱり、そうか。それがシキタリってことなんだろうな。と思ったその時、シアユンさんが静かに口を開いた。


「メイユイ」


「あ。はい」


「マレビト様の言葉を受け入れるのもまた、シキタリです。当然それには、()さることも含まれると(かい)するのが自然です」


「はい……」


シアユンさんは優しく(たしな)めるような口調ではあったけど、メイユイはショゲた表情を見せた。俺のせいで、申し訳ない。


「意見を申し上げるのは(かま)いませんが、(とが)めるのはよろしくないと思いますよ」


「はい。……マレビト様、失礼しました」


と、メイユイが俺に頭を下げたので、かえって恐縮(きょうしゅく)してしまった。剣士の闘いが厳粛なものだと教えてくれて、ありがとうと伝えると、ちょっと(ほほ)に赤みが差した。フーチャオさんがメイユイの肩を叩いて「ドンマイ!」って感じの笑みを向けてる。兄貴の(とし)(こう)を感じる。


フェイロンさんはその間もずっと城壁から目を離さず、俺達のやり取りには関心がないように見えた。


本当のところは、どう思ったんだろう?


俺は剣士以外の住民も戦闘に加えたいと思ってる。もちろん強制は出来ないし、なんらか適性(てきせい)のある人たちだけでいい。剣士たちの負担を(やわ)らげ、人獣たちとの果てのない戦闘を終わらせる活路(かつろ)見出(みいだ)す、端緒(キッカケ)がほしい。


でも、それには剣士たちの気持ちが立ちはだかる。俺のアシストで、オレンジ髪の剣士のプライドを著しく傷つけたことは分かった。剣士の士気を下げては、元も子もない。


いや……、立ちはだかるのは『シキタリ』か。


夜明けまで戦闘を見守りながら、俺はずっとそのことを考えていた――。


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