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242.霊縁(8)ユエ・メイユイ


「ああっ! マレビト様。私の()()、見ちゃいましたねぇ?」


と、荷物を広げたあと、お茶を()れてくれたユエに笑われた。


「見ちゃいますねぇ」


と、苦笑いして窓際(まどぎわ)に腰掛けた。


ユエが毎朝お茶を()れてくれてたのは、連弩(れんど)づくりに頭を悩ませてた頃。思い出深い。


って、思い出深い()()ってなんだ? と、(まゆ)を寄せながら、久しぶりの味を楽しんだ――。


「マレビト様に会えてねえ、人を好きになってもいいんだ! ってことが分かったよ」


と、すっかり美しく変貌(へんぼう)したユエが微笑(ほほえ)んだ。


「私は怒られてばかりだったから、マレビト様やユーフォン様に()められて、どうしたらいいか分からなかったよ」


ユエの父母や兄が、どうしてユエを愛せなかったのか分からない。もう、永遠の(なぞ)になってしまった。


「ありがとうって……、言えば良かったんだね」


「そうだね」


「ふふふっ。マレビト様は、ゆっくりな私でも自分で気が付くまで待ってくれます」


と、ユエはドヤ顔で微笑(ほほえ)んだ。


「自分で気が付いたことは、言葉に出来るのです」


「そうだね」


「言葉に出来たら、()んなと()かち()えるのです。……それが、とっても嬉しいのです」


「嬉しいよね。分かるよ」


「……私は」


と、ユエは窓の外に目を移した。


「マレビト様に純潔(はじめて)(もら)ってもらいたいのです……」


「えっと……」


髪色と同じ水色のドレス姿のユエが、そっと俺の手を握った。


「マレビト様は、私の純潔(はじめて)を、自分の()()()()と思ってくださる方です……」


と、(ほほ)を赤らめるユエを初めて見たかもしれない。


「一緒に……、()()()()……、してください……」


そのまま、そっと抱き()めると、ギュ――ッと抱き()め返してくれた。


「でも、言葉にするのは、まだ苦手です……」


「うん……。無理することないよ」


「マレビト様に私は、自分を好きにさせてもらいました」


「うん」


「マレビト様にも、私を好きになってもらったら……、いいなって……、思ってます……」


そのまま、2人の()()()()を一緒に出来た――。


また、霊縁(れいえん)が結ばれ、視界に広がる紋様(もんよう)がスルリと絡み合った。


「えへへ」


と、笑うユエの頭を()でた。


「ところで、リンシンさんの再婚相手って誰なの?」


「まだ、内緒です。それに、もう1組、マレビト様がビックリする再婚があるんですよぉ」


「そうなんだ……」


「えへっ。楽しみにしてて下さいね」


と、ユエの笑顔が柔らかくて、俺の心も緩んだ。


「マレビト様ぁ……」


「ん?」


「もう一回、()()()()しましょう……」


「ええっ? それは2回目……」


「2回目は、()()()()です……」


それは、()()()()の無限ループなんじゃと思ったけど、もう一回、()()()()した。


大浴場(ハーレム風呂)で一番大きな(ふく)らみに包まれて、なんて言うか、スゴかった……。


 ◇


荷ほどきも早々に、メイユイと最終城壁の中をゆっくりと歩いて回った。


俺の護衛の任を()かれ、今は宮城(きゅうじょう)衛士(えいし)団の一員として頑張ってくれている。


「この辺でしたよね?」


と、笑顔で振り返ったメイユイは、やっぱり美人の1コ上のお姉さんだ。


「マレビト様に失礼なこと言うチンピラを(しか)り飛ばして……」


――マレビト様よぉ! もう、何人とヤッたんだぁ?


と、下卑(げび)た笑いを投げ付けられて(めん)()らった。けど、メイユイにも「マレビト様は純潔(どうてい)なんだ!」と公衆の面前で暴露(ばくろ)されて、顔から火が出るかと思った。


でも、聞こえたホンファは笑って、思わず顔を上げたみたいだし、避難してきたばかりの人たちを(なご)ませたんなら、それも良かった。


「後から、あのチンピラがジンリーのお父さんだって知って」


「うん」


「オラオラだったから槍を握って……、でも、右腕を失くしちゃって……」


「そうだね……」


「今はすっかり真面目になって、村長のフーチャオさんの下で自警団の顔役です」


「うん。頑張ってくれてるね」


「マレビト様が、あのどうしようもなかったチンピラを変えたんです。スゴいことです……」


メイユイは感慨深げに、今はもう仮設住宅の撤去(てっきょ)された宮城(きゅうじょう)北側の広場を(なが)めた。


それから、メイユイが護衛のために寝起きしてた、俺の部屋の前室で並んで腰を降ろした。


「衛士の装甲を短弓(たんきゅう)隊に採用してくれたときは、嬉しかったなあ」


「うん……」


「100人以上いたのが、10人ちょっとですよ!? ほぼ一晩で。衛士長も()んな、住民を避難させようとして……、()われてしまいました……」


――みんな……。一矢(いっし)(むく)いてくれたよ。


短弓(たんきゅう)隊が衛士団の装甲を着け初陣を終えた、夜明けのメイユイの(つぶや)きが今も耳に残ってる。


「だから、前室(ここ)にいたら、つい手を出してくれて、つい呪力(じゅりょく)発現(はつげん)して、つい人獣(じんじゅう)をやっつけてくれるんじゃないかって思ってたのに、全然でした」


「ははっ。そうだったんだ」


「フェイロンさんには下着姿見られちゃうし散々(さんざん)でした」


「なんだ、起きてたんだ?」


「あんなの、寝たふりしとくしかなくないですか? イーリンさんはスルッと通しちゃうし」


「ははっ。災難(さいなん)だったね」


「マレビト様。いつも胸をチラッて見てくるし、もう少しだと思ってたんだけどなぁ」


「あはは。分かってたんだ」


「分かりますよお。服を着替える(たび)に見るんですもん」


「あはは」


笑うしかない。


「だから、復讐(ふくしゅう)戦です」


「えっ?」


「私の純潔(はじめて)……、この部屋がいいです……」


「いや……」


「ちゃんと、(かぎ)()けときました。フェイロンさん入って来れないように」


「あ、うん……」


「私も変えてください……」


と、上着を脱ぐと、胸がぽいんっと一回り大きくなった。


「私にも……。一矢……、報いさせてください……」


と、身体(からだ)を預けられ、一矢、報いられた――。


紋様(もんよう)が広がって輪になり、霊縁(れいえん)が結ばれたことが分かる。


少しドヤ顔をして、俺の顔を胸にはさんで眠るメイユイが、(いと)おしくてたまらない――。


あの頃、メイユイも()れそうな心を懸命(けんめい)(ふる)い立たせて、一緒に闘ってくれてた。ずっと(そば)で俺を護ってくれてた。俺が記憶する多くの場面にメイユイの笑顔がある。


そして、一緒に生き残ることが出来た。


報いられたことに、俺も満たされていた――。




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