239.霊縁(5)ツイファ
「もうすぐ完成ね!」
と、寝台で上着を羽織りながらリーファが言った。
「ど、どれが……?」
ジーウォ城では、あちこちで復興や改修が進んでいる。人手不足でスピードが出ないのもあるけど、日々、色んなものが少しずつ出来上がってる。
「あ、そっか。ミンリンが設計してくれた宮城の望楼。私、すごく楽しみにしてるんだけど」
「そうだね! 住民に開放する出入り口付けるの、リーファのアイデアだったよね?」
「そう! スカイツリーや東京タワーみたいでいいでしょ?」
「うん、いいと思う」
「ホントはね『望』って、睨んだ領土を奪うぞっていう呪いなのよ。あ、呪術じゃなくて迷信的なヤツね」
「へぇ、そうなんだ」
「でも、もういいよね? なんなら皆んなで領土を望んでも」
「いいんじゃないかな?」
リーファは窓に手を当て、外の景色を眺めている。そして、突然、声を張った。
「まあ、気ぃ遣われとけよ! 勇吾!」
「え、なに? どしたの急に?」
「実際、お前は大したヤツだよ!」
リーファはクルンとからだを回して、俺を見た。
「気ぃ遣って、気ぃ遣って、ここまでまとめてきたんだ。そろそろ気を遣われる側になる番だろ?」
「ふふっ。なんのキャラ?」
「勇吾はスゴいよ! 皆んなから愛されるのも分かる! 分かるなぁ。分かっちゃったなぁ」
「う、うん……」
「皆んなもスゴい。皆んな、勇吾と一緒に私も愛してくれてる。皆んな器が大きいよ。でも、それは勇吾がいてこそ、なんだなぁ」
「そんなことないよ、リーファのことだって……」
「私の男は、こんなにもいっぱい愛されてるんだぞー! って、自慢したい気持ち」
リーファは微笑みながら、俺を真っ直ぐ見詰めた。
「だから、今は気ぃ遣われる番なんだよ!」
「あ、うん……」
「まあ、あれだ。異世界ボーナスだ」
「ふふっ。異世界ボーナス?」
「お前、アレだぞ? もし日本に帰ったら、浮気は許さねぇからな?」
「あ、はい……」
リーファは駆けて俺の胸に飛び込み、顔を埋めてギュッと抱き締めた。
「うわっ、なになに?」
「……だから、……胸を張って、皆んなの想いを受け止めてあげてね?」
「うん、分かったよ。分かった」
「勇吾」
「ん?」
「大好き」
「俺もだよ」
「んふふ」
部屋に戻ると、すっかり身支度を整えたツイファさんがいつもの澄まし顔で迎えてくれた。
それから、久しぶりに蕩けるようなマッサージをしてくれた。
「前線に出られないことを、いつも歯痒そうに見ておられましたね」
「ははっ……。俺が行っても足を引っ張るだけでしたから」
「クゥアイやチンピラ達でさえ槍を握ってるのにと、歯を食いしばって我慢されてる横顔が素敵でしたよ」
「そんないいモンじゃないですよ」
「我慢強さではマレビト様とユーフォンが、いい勝負でした」
「ははっ……」
「上に立つ者のお役目をまっとうされて、ご立派でした」
「救われます……」
「私たちの気持ちに応えられないことも、歯痒そうにされてましたし」
「そうでした……?」
「はい」
「ツイファさんには、何でもお見通しですね」
「闇の者ですから」
と、笑ったツイファさんを見ると、あの時の戦闘服のビキニ姿だった。
「ど、どうしたんですか、それ?」
「あれ? お嫌いでした?」
「そんなことないですけど……」
「もう捨てようかと思って」
「なんで?」
「闇の者も私1人になっちゃいましたし、今のジーウォでマレビト様やリーファ妃を狙う者もいないでしょうからね」
「そうかぁ……」
「マレビト様がお好きそうでしたので、最後にと思いまして」
「あ、いや……、はい……。好きです」
クスッとツイファさんが笑った。
「闇の者の……、私の本質は『護る者』です」
――むきゅ。
と、抱き寄せられた俺の顔が、覚えのある柔らかさに包まれた。
「これからは武器に依らず、お二人のお心をお護りいたします」
「そうか……、よろしくお願いいたします」
「シュエンの心もこうやって解きほぐしたんですよ?」
「ははっ。それはスゴい実績ですね」
「実績ある、おっぱいなんです」
いつも実務的で澄ました雰囲気のツイファさんの口から「おっぱい」なんて言われるから妙にドキドキしてしまった。
「力を抜いてください」
「はい……」
「大丈夫です。はじめて同士です」
「え? えっと……」
「マレビト様も5人目は初めてです。大丈夫ですよ? ツイファがお護りいたしますから……」
そのまま、ツイファさんに身を委ねて、目を開くと蠢く紋様がひとつ増えていた――。
――頑張って4人目で限界がきた。
という、3代マレビト山口さんの話を、なんとなく気にしてたこと、ツイファさんにはお見通しだったなぁ……。
俺を胸に抱き締めてくれてるツイファさんが、クスッと笑った。
「いかがでした? 私の純潔」
「す、素敵でした……」
「それは良かったです」
と、ツイファさんは初めて見る笑顔で、はにかんでいた。
そして、武器は捨てても戦闘服ビキニは捨てないように強くお願いした。
「マレビト様……、エロいですね」
と、恥ずかしそうに笑いながら、頷いてくれた――。




