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237.霊縁(4)クゥアイ


「えへへっ! なんだか、照れちゃいますねっ!」


と、ちっとも変わらないクゥアイが、俺の寝室で荷物を広げていた。


そして、回廊(かいろう)ミーティングで着てた、スラリとしたチャイナなドレス姿に着替えた。


「えへへっ。実はこの服、マレビト様がくださった布地で、お祖母(ばあ)ちゃんが()ってくれたんです。せっかくいい布いただいたんだからって」


「うん、可愛(かわい)いよ」


「え――っ!? そんなこと言わないでくださいよぉ……。もっと照れちゃうじゃないですか」


着替えのない避難民に備蓄の布地を提供したとき、クゥアイが満面の笑みで駆け寄って来てくれた。あの時からクゥアイの笑顔は変わらない。


「でも、お祖母ちゃんが喜びます。側室(そくしつ)様にまでして頂いたんだから、女の子らしい格好しなさいって、うるさかったから……。似合ってます……?」


「うん。すごく可愛(かわい)いよ」


「もう! ……ありがとうございます」


人獣(じんじゅう)との闘いの最後まで、槍兵をリーダーとして引っ張ってくれた歴戦(れきせん)の英雄も、本当は普通の女の子だ。


褒められたことに照れて、(ほほ)は赤く口を(とが)らせている。


お気に入りの服で城内を散歩する。


「えへっ。まだ私が管理させて(もら)ってるんですよ」


と、祖霊廟の植え込みに作った薬草畑にしゃがんだ。


「ホントにずっと()れるんだ」


「そうなんですよぉ! 健気(けなげ)な子たちなんです。食べてみます?」


「え? そのまま食べれるの?」


「はい! ちぎりたての新芽は甘くて美味(おい)しいですよ」


「ホントだ、甘い」


「でしょう! 薬になるのに甘い、可愛(かわい)い子なんですよお!」


槍より(くわ)が似合う農業女子がクゥアイの本質だ。


だけど、ずっと自分の意志で、自分の道を開拓して進んできてくれた。アスリートみたいに引き締まってるけど、この華奢(きゃしゃ)身体(からだ)には強い開拓者精神が詰まってる。


第3城壁に登って夕陽(ゆうひ)(なが)めた。


「夕焼けを見るとまだ、『あっ! 外征に行かなきゃ!』って思うときがあるんです」


「そうか……、先頭に立って頑張ってくれてたもんな」


「でもね、『ああ、(かたき)()ちは終わったんだった』って、ホッとするのもキライじゃないんです」


クゥアイが結婚を意識してた幼馴染は、人獣(じんじゅう)()われた。その仇討ちをしたいと、クゥアイは槍を握った。


「マレビト様のお陰です」


「ううん。全部、クゥアイ自身が切り(ひら)いて来た道だよ」


「ええぇ? そんなことないですよお」


「フーチャオさんを押し切って」


「言わないでくださいよぉ。恥ずかしいな」


「俺も押し切られて。へっぴり腰には負けませんっ! って」


「それは、負けませんでした」


「あははっ! うん、負けてなかったよ」


「はい!」


「全部、クゥアイが切り拓いて(つか)んだ勝利だ」


「……アスマさんとラハマさんに教えて(もら)いましたよぉ」


「それもだよ。それもクゥアイが切り拓いた」


「ええ――?」


「クゥアイが自分で問題意識を持って、自分でアスマに頼んで、自分で教わった。クゥアイの切り拓いてくれた道を、槍兵の()んなが歩けたんだ」


「もう! マレビト様!」


と、クゥアイは可愛(かわい)いふくれっ(つら)になった。


「な、なに……?」


「私、一生懸命、女の子らしくしようとしてるのに! 私が強かった話ばっかり!」


「あ、ごめん……」


「ええ! 私、強かったですよ! へっぴり腰には負けませんしね! あんなんじゃ(くわ)も振れませんし」


か、可愛(かわい)いんだけど……。


トンっと、(こぶし)を伸ばして胸を叩かれた。


「マレビト様の方が、いっぱい切り拓いて来られたじゃないですか……」


夕陽(ゆうひ)でクゥアイの顔が真っ赤に染まっている。


「そ、そうかな……?」


「そうです……。でも……、まだ、切り拓くべきです……」


「ん? なに?」


「マレビト様は……、私を切り拓くべきです……」


そのまま寝室で、すごく優しく丁寧に、切り拓いた――。


息を整えながら微笑(ほほえ)んだクゥアイが、口を開いた。


「アスマさんの言う通りでした」


「えっ?」


「なかなか……、良いものでした……」


そこの師弟(してい)関係は強固(きょうこ)なんですね……。


またひとつ霊縁(れいえん)が結ばれて、紋様(もんよう)の輪が加わった。


「もっと……、切り拓いてもいいんですよ……?」


朝までクゥアイの女子としての魅力を語らされて、自然と追加で切り拓いた。クゥアイは俺を強く抱き()めたまま、笑顔で眠りに落ちた。


初めての歳下で、よりドキドキした。優しく、出来たかな……?


ずっと目が奪われてきた腹筋を、めっちゃ()でさせてもらって、なんだか満たされた。


緊張の4人目がクゥアイで良かった――。



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