24.大人の会議(3)
「俺は気に入った! マレビト様の思う通りにすればいい」
と、フーチャオさんが続けた。
はは。その「思う通り」の、思うことがないから困ってるんですよ。
「元々、この城のことは城主が全部決めてた。俺達が話し合って決めるなんてことは一切なかった訳だ。こんな大ピンチでも、慣れないことが突然出来る訳がねぇ。マレビト様がその目で見て、その耳で聞いて、思うこと感じることを、俺達に命令してくれればいい。なあ? 三卿の皆様方もそうは思わねぇですか?」
「一理ありますな」
と、柔らかな声で応えたのは、人の良さげな小太りのウンランさんだ。
「事ここに至って、長々と評定に時間を費やすことも無駄でしょう。我らは各々、自分の持ち場をしっかり務めておりますれば、大きな方針はリーファ姫が命を賭して召喚し、祖霊がお遣わしになったマレビト様に委ねるのも、悪くはございませんわい」
「リーファ姫は……」
と、口を開いたのは剣士長のフェイロンさんだ。
「この危難にあって、見事な采配を振るわれた。儂が王都にある時分には、第4王女たるリーファ姫と接する機会は少なく、あれほど毅然としたお振る舞いの出来る方とは気付かなかった」
シアユンさんが気品あるポーカーフェイスのまま、目を伏せた。
「リーファ姫の判断で召喚されたマレビト様である。儂に異存はない」
そうかい、そうかいと頷くフーチャオさんが、ミンリンさんの方を向いた。たぶん、一番身分が低いのはフーチャオさんなのだろうに場を仕切ってる感じが、これまで色んな修羅場を渡ってきたことを表してるんだろうなって思った。兄貴だ。
「私は……」
と、ミンリンさんは、少し目を泳がせながら小さな声で応えた。今朝の風呂場で思った『土木好き黒髪インテリ巨乳陰キャ女子』という言葉を、頭の中で払おうとするんだけど、なかなか出て行かない。
「私は、マレビト様のご負担にならないか……。心配なのは、それだけです……」
と、目元を赤らめたミンリンさんが、上目遣いに俺を見た。このタイミングで、可愛い感じの仕草はやめてほしい。場にそぐわず、ドキッとしてしまう。
ふむと、フーチャオさんが少し考えてから、俺の方に向き直った。
「マレビト様はどうだい? 今のところの気持ちでいいんで、どうしたいか教えてくれないですか?」
「そ、そうですね……」
正直な感想は、シアユンさんも入れて大人5人に囲まれて面接を受けてるみたいだ。少し考えをまとめてから、口を開いた。
「まずは、城の中を見て回りたいです。最終城壁の中? それに、住民の皆さんの話も聞いてみたい。それで思い付いたり、感じたことがあれば、皆さんにお話しさせてもらいます。それで、どうでしょうか?」
「いいんじゃねぇか?」
と、フーチャオさんが一同を見回した。フェイロンさんも、ウンランさんも、ミンリンさんも頷いてる。
決まりだなという、フーチャオさんの言葉で皆さんが頭を下げて、席を立った。
ああ、終わりなんだと思って、皆さんを見送ろうとしてたら、誰もその場を動かず、だんだん怪訝な表情になってきた。
シアユンさんが、俺の耳元に口を寄せて囁いた。小さくてお綺麗な顔が近いです。吐息が耳にかかってますし。
「マレビト様が先に部屋をお出にならないと、皆が動けません」
おう。そういうの、言われないと分からないです。高校生ですから。卒業式は済ませましたけど。
慌てて立ち上がって、皆さんに一礼して、シアユンさんと一緒に部屋を出た。
ふうっと、大きな息が漏れた。大人の会議、緊張した。
あとは、ミンリンさんに「あ! 今、この人、私の裸を思い出してる!」って思われてないことを祈るだけ。だいぶ、思い出してたけど――。