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212.里佳の事情②


「ええぇ――!? (リーファ)、生きてるの?」


勇吾との2度目の交信で、私のリーファ姫としての身体(からだ)が生きて眠り続けていることを知らされた。


「うん。スヤスヤ寝てる。何も食べてないのに、ちっとも変わらず」


と、光の向こう(がわ)から勇吾が言った。


「それでか……」


「え?」


「私が大食いな理由……。呪力(じゅりょく)がどう働いてるかは分からないけど、身体(からだ)2つ分食べてるんだわ、私」


「ああ、そういう……」


日本(こっち)に転生して呪力(じゅりょく)を失ってる今の(里佳)では検証(けんしょう)しようがないけど、たぶん、そういうことだと思う」


ダーシャンで初代マレビト様が(ひら)かれ700年以上続いている呪術(じゅじゅつ)だけど、まだ解明(かいめい)されていないことも多い。


解読された遺伝子(いでんし)から順に遺伝子治療に応用されていっているようなもので、自分で組んだ術式でも行使(こうし)してみないと、その働きが分からないことも間々(まま)ある。


「結構、コンプレックスだったのになぁ。そんな理由だったなんて」


と、私がボヤくと勇吾が大きく目を見開いた。


「あれ? そうなんだ。いつも美味(おい)しそうに食べてるし、気にしてないって思ってた」


「だって、恥ずかしそうにしてたら、余計にカッコ悪いじゃない」


「ところでさ……?」


「ん?」


「何、かぶってるの?」


あっ! 取るの忘れてた!


「イヤーハット? ネズミの国の?」


「う、うん……」


同級生たちと、卒業記念に遊びに来ている。勇吾からの交信はてっきり夜だと思い込んでたら、カバンの中で手鏡(てかがみ)が光り始めて、(あわ)ててトイレに()け込んだのだ。


「俺も行くはずだったヤツだ」


と、勇吾が悪戯(いたずら)っ子のように笑った。


「ご、ごめん!」


「いいよ別に。楽しんで来いよな」


気持ち良く笑い飛ばす勇吾は、私が知ってるより男前だった。


それもそうか。あの過酷(かこく)な城で、もう65日も闘い続けてるはずだ。人間が成長するのには充分()ぎる経験をしてる(はず)だ。


()れ直すわ……」


と、思わず(つぶや)くと「なんだよ急に」と、勇吾が照れ笑いを浮かべた。


付き合いたてっていう感じが不意(ふい)()き上がって、フルフルッと身体(からだ)(ふる)えた。


「そっちはどう?」


と、照れ隠しのように(たず)ねてしまった。


「うん。第3城壁を奪還したよ!」


「すごい! すごいね! さすが勇吾だ」


(リーファ)(ひき)いていた(ころ)のジーウォ城は人獣(じんじゅう)どもに押し込まれてばかりだった。人命(じんめい)もたくさん(うしな)わせてしまった。


それを、押し返している勇吾が率いるジーウォ城。


さすが、私の()れた男だ。


「ねぇねぇ! どうやったの? どうやって奪還出来(でき)たの?」


「でも、そこから行き()まってて……」


「先に奪還出来(でき)た話を教えてよぉ!」


今の私には勇吾の話を聞いて(はげ)ますことくらいしか出来ない。


けれど、勇吾が(かた)(はなし)は私の知るダーシャンの常識を(はる)かに超えて来る。第4王女リーファとしての私からすれば驚愕(きょうがく)一言(ひとこと)だ。


「北の蛮族(ばんぞく)味方(みかた)にした!?」


「うん。北の蛮族はリヴァント聖堂王国っていう国だったんだ。それで、追放されちゃったアスマっていう女王様が地下牢から発見されてね……」


北の蛮族と意思の疎通(そつう)が出来たってだけでもスゴいことだ。私の知ってる()()()()は出会えば()りかかってくる蛮族だ。


それを味方に? 臣従(しんじゅう)させた? 私の彼氏はどこまで人を()()む力があるんだろう。偉大(いだい)過ぎる。尊敬の(ねん)()き上がって()まらない。


「それで、イーリンさんがね……」


と、勇吾が語るイーリンというのは、話の流れから(おそ)らく剣士なのだろう。


王族だった(リーファ)は剣士ひとりひとりの名前など知らない。勇吾は城の人たちの中に()()り、まとめ上げたのだろう。


価値観も全く違う人々の中に(はい)って()き、心を開かせ、まとめる。口で言うほど簡単なことじゃない。


それを、私の彼氏はやり()げたのだ。


私は勇吾の語るジーウォ城の闘いに、心(おど)らせながら、うっとりと耳を(かたむ)けた――。



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