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204.第2城壁防衛戦!(1)


(あわ)ただしく防衛戦の準備が進む第2城壁上を、急ぎ足に移動する。すれ違う兵士や剣士の表情は達成感に(あふ)れている。


夕陽(ゆうひ)が逆光に照らす(やぐら)の屋根で作業する、ジンリーの薄紫(うすむらさき)髪が見えた。


玉篝火(サーチライト)なしでは夜間の戦闘が(むずか)しくなる。司空府(しくうふ)の職人たちの慎重(しんちょう)迅速(じんそく)な作業が続く。


「我が(あるじ)


と、アスマに呼び止められた。ラハマもいる。


夜の戦闘に(そな)え、ミンユーと連携(れんけい)の確認をしていた。最終城壁より高くなるなど、勝手が変わる。見下(みお)ろすと、第3城壁との間には人獣(じんじゅう)がウヨウヨしている。


日没(にちぼつ)まで時間がない。


南西(なんせい)(かど)(やぐら)(のぼ)り、俺が召喚された小部屋(こべや)に入る。


石造りの壁、板張りの天井。朱色(しゅいろ)()られた(はり)……。床には、あの時のままに()(もの)(じょう)呪符(じゅふ)散乱(さんらん)していた。


「良かった。()()らされていませんね」


シアユンさんは(うなず)いて、呪符(じゅふ)を手に取り丸め始めた。


()んなには内緒(ないしょ)の作業だ。手早(てばや)()ませ、(やぐら)を出た。


その時だった。


頭上(ずじょう)から「あっ!」という大きな(さけ)び声が聞こえ驚いて見上げると、ジンリーが足を滑らせ落ちていくのが見えた。


「ジンリー!!!」


と、俺が叫ぶや(いな)や、アスマが城壁の外に飛び降りた。


まさにジンリーを()おうとしていた人獣(じんじゅう)眉間(みけん)を、間一髪(かんいっぱつ)でアスマのランスが(つらぬ)く。


短弓(たんきゅう)兵!! アスマを援護(えんご)!!!」


というミンユーの声が(ひび)き、アスマとジンリーに(むら)がろうとする人獣(じんじゅう)射抜(いぬ)かれる。


ジンリーは地面に打ち付けられて、身動きひとつしない。アスマが(かば)うように立って、ランスで人獣(じんじゅう)交戦(こうせん)している。


外征(がいせい)隊を救出に……」


と、俺が言うと同時に、ラハマが手にしていたランスを真下に振り下ろした。


ガチーンッ! という、金属が石を砕く音が大きく響いて、ランスが城壁に深く突き刺さっている。


「いや、我が(あるじ)よ。(われ)が行く」


深く刺さったランスの()からロープが引っ張り出される。仕掛(しか)けに驚くより先に、ロープを身体(からだ)に巻き付けたラハマが壁を降下(こうか)し始めていた。


()け付けたシーシが城壁の上から、何度もジンリーの名前を呼んでいる。


ジンリーを(かか)えたラハマがロープを(のぼ)って城壁上に戻り、続いてアスマも戻った。


あっという間の出来事だった。


「シーシ! 動かしたらダメだ! 頭を打っているかもしれない」


と、シーシを止めて、タンカの手配(てはい)を指示する。


外で凶暴化(きょうぼうか)した人獣(じんじゅう)対処(たいしょ)()わせて、騒然(そうぜん)とする城壁上を見渡(みわた)して声を上げる。


「よし! 出来る人から、戦闘の準備を再開してください! ジンリーは俺が見てますから」


「そ、その通りなのだ! 日没が近いのだ!」


と、シーシがジンリーの()わりに屋根に登ろうとする。


「ダメだ、シーシ!」


「な、なにがダメなのだ?」


「今のシーシは平常心(へいじょうしん)じゃない。親方に代わってもらうんだ」


シーシは少し戸惑(とまど)った表情をしたあと、ニカッと笑った。


「さすが、マレビト様はボクのことをよく分かってるのだ。肌を合わせてるだけのことはあるのだ」


「言い方……」


タンカが運ばれて来て、ジンリーが慎重に城壁の下に()ろされる。


ホンファに付き()われて、薬房(やくぼう)に運ばれて行くジンリーを見送ってから、アスマとラハマに頭を下げた。


「ありがとう。助かった」


「なんの」


と、アスマが余裕(よゆう)の笑みを見せた。


「やっぱり、アスマもラハマもカッコいいな」


同胞(はらから)を助けることなど、当然のことだ」


アスマもラハマも(まゆ)に力を入れて、顔が(ゆる)むのを押さえているのが分かった。


自分の命も(かえり)みず、咄嗟(とっさ)にあの人獣(じんじゅう)()れの中に飛び込む。なかなか出来ることじゃない。やっぱり、アスマは偉大な女王だったんだと思うし、ラハマは高潔(こうけつ)な聖堂騎士なんだろうと思う。


回廊(かいろう)を抜け、最終城壁に戻ると空は半分濃紺(のうこん)に染まっている。刻一刻(こくいっこく)と日没に近付いている。


回収した呪符(じゅふ)はシアユンさんに(まか)せて、ジンリーの運ばれた薬房(やくぼう)に向かった――。



本日の更新は以上になります。

お読みくださりありがとうございました!


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