20.キャッキャ(1)
――うん。こうなることは、予想できたよね。できなかったけど。
俺は為す術もなく、呆然と立ち尽くしていた。
広い大浴場には、全裸の女子、女子、女子、女子、女子、女子……。大きな胸も、小さな胸も、ほどよい胸も、丸い尻も、シュッと締まった尻も、俺を囲んでる……。
あの俺的には嵐のような純潔乙女会議の後、寝つける訳もなく、やっぱり睡眠不足で日没を迎えてしまい、望楼から人獣と剣士の血で血を洗うような戦闘を見守った。絶望的にも思える凄惨な戦闘は夜明けまで続き、今日も最終城壁は守り切られた。
これまで通り、シアユンさんに案内されて大浴場に入ると、湯煙の中で昨日の女子たちが全員キャッキャしてた。
戦闘から戻ったであろうイーリンさんが遅れて浴室に入ってくる。うん。生で見ると迫力が違いますね。直視はできませんけど……。
「皆、その身を捧げたいのでございます」
と、シアユンさんが囁いた。全裸で。
楽しげに湯をかけあう女子たち。もう、止められませんね。止めるとしたら昨日でしたね。シアユンさんにだけ許すみたいなのは、女子が一番きらうヤツですよね。里佳から教わってます。
嬉しい気持ちもありますよ。女子の裸なんて、見たくない訳ないじゃないですか。
「こちらに」
と、シアユンさんに促されて昨日も使った木製のバスチェアに腰を降ろすと、イーリンさんが俺の後ろに回った。
「し、失礼いたします……」
と、イーリンさんが慣れない手付きで俺の背中を流し始める。ほかの女子たちがニコニコしながら、こっちをチラチラ見ているのが分かる。
どんな顔してたらいいのか、まったく分からない。
「昨日は、マレビト様のお気持ちも知らず、失礼いたしました……」
と、イーリンさんが申し訳なさそうに言った。後ろは向けない。けど、どこを向いても誰かのなにかは目に入ってしまう。
「いえ……。謝るようなことでは……」
「召喚されたマレビト様に純潔を捧げて、よもや困らせてしまうことがあるとは思いもよらず……」
うん。普通はそうかもしれませんね。普通が何か分かりませんけど。
「み……、見てました……」
「え？」
「宮城の望楼から、城壁で闘うイーリンさんを見てました」
と、フラれた話から話題を変えたかった俺の言葉に、イーリンさんは少し戸惑ったような素振りになった。
「そ、それは、光栄です……」
「俺、剣のことは何も分かりませんけど、すごく綺麗で……」
「えっ……」
「流れるような動きが、舞ってるみたいに綺麗で、見惚れてしまいました」
「お、恐れ入ります……」
目の前では自分の体を洗い終わった女子たちから順番に湯船に浸かり始めてる。ああ。そこに俺も浸かるんですね。男の夢ですよね。きっと。本当は。
もはや脳裏に浮かぶ里佳の姿がギャグのようにも感じてしまう。しっかりダメージは受けるんだけども、置かれた状況が現実離れし過ぎてる。
「あ」
と、思わず声を出してしまった。背中にイーリンさんの豊かなのが当たって、手が身体の前を洗おうと伸びてる。
「あの、あの……」
躱すように体をひねると、背中に柔らかな感触が滑っていく。向き直るとイーリンさんの全身がバッチリ視界に収まってしまった。イーリンさんはキョトンとした表情で手を止めてる。
「ま、前は自分で洗うんで……」
確実に顔を真っ赤にしてる俺がそう言うと、女子たちが皆一斉に生温かい視線を向けて来たのを感じた。
ええ、そうですよ。前を触られるの恥ずかしいですよ。純潔の男子高校生ですからね。
にっこり笑うイーリンさんから手渡された手拭いで、いつもよりゴシゴシ体をこする。そんな俺を、皆がニコニコ見てる。
我ながら初心が過ぎる――。
これ、きっと毎日続くんだろうなぁと思いながら、手拭いでこすれる場所がなくなった俺は、泡を流して湯船に、そっと浸かった。高校１クラス分の女子を掻き分けて――。
