表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

187/262

185.かもしれない秩序(1)


大夫(たいふ)たちのことはともかく、一度、ズハン殿の話をよく聞いていただけませんでしょうか?」


と、スイランさんは()()ぐ俺を見詰(みつ)めたまま言った。


「ズハン殿は私には(えら)ぶるところもない(かた)でした。この資料もまるで私に()()ぎをするように、丁寧にまとめてあります」


うーん。地下牢(ちかろう)で俺に(どく)づいてばかりのズハンさんとイメージが一致(いっち)しない。


「ズハン殿は、元々はウンラン様が王都から来られたときに、一緒にお(うつ)りになられた方です。この資料に目を通せば通すほど、今さらながら、何か(わけ)があるような気がしてならないのです……」


「分かりました。一度、じっくり向き合ってみます」


そろそろシャオリンとの約束の時間なので、執務室(しつむしつ)を出ようとした時、スイランさんが何気(なにげ)なく(たず)ねてきた。


「母が外征(がいせい)隊に加わるという話は本当ですか……?」


「ええ。ヨウシャさんが志願(しがん)してくださったと聞いてます」


「……ホントに何を考えているのか」


「ヨウシャさんから聞いたんですか?」


と、俺が(たず)ねると、スイランさんが(けわ)しい顔付きをした。


「母とはもう何年も話しておりません」


「あ……、そうなんですね……」


「考え方が合わないのでございます」


それ以上の質問を()()けない感じだったので、俺はそのまま部屋を出た。


お母さんを()くしたジンリーもいれば、近くにいるのに分かり合えないスイランさんもいる。この小さな小さな城の中でさえ、人それぞれだ。


シャオリンが(ひそ)かに大夫(たいふ)たちを集めてくれた部屋に入ると、これまた()んな(そろ)ってエビス(がお)。こわいなぁ、貴族って。


と思いながら、席に着いた。


ズハンさん以外にジーウォ城に残る大夫(たいふ)は4()()んなズハンさんとは違って、数代前(すうだいまえ)からジーウォという家柄(いえがら)だ。


見ると奥の方にディエも座っている。シャオリンではなく、父親に同席を求められたようだ。


「ズハン殿のお加減(かげん)はいかがですかな?」


と、代表したエビス顔が(たず)ねてきた。


「もうしばらく、隔離(かくり)が必要ですね」


「とはいえ、既に10日以上。そろそろ我らも見舞いになど(うかが)いたいのですが……、はて? どちらで療養(りょうよう)されているのやら」


「それには(およ)びません。宮城(きゅうじょう)衛士団(えいしだん)がキチッと看病(かんびょう)しておりますから」


後ろに座ったエビス顔のひとつが、般若(はんにゃ)の顔付きになって(つぶや)いた。


「……我ら大夫(たいふ)(ないがし)ろにされては、(おさ)まるものも(おさ)まりませんぞ」


ま、そういうご用事ですよね。俺も冷ややかに答えた。


「と、言うと?」


代表のエビス顔が()(つくろ)うように、(おもね)った声を上げる。


「なになに。我ら大夫(たいふ)には長きに渡ってジーウォの統治(とうち)に関わってきた知恵があり(もう)す。マレビト様にもそれを活用していただきたいというだけの話ですよ」


「なるほど」


「私は娘のディエも(ささ)げておるのですぞ。マレビト様への忠義(ちゅうぎ)()るぎございません」


そうか。この代表エビス顔がディエのお父さんか。後ろを見るとディエが青ざめた顔で(うつむ)いている。


そりゃそうだ。自分を道具のように言われたら、そういう反応にもなるよね。俺もあまりいい気分はしない。というか、不愉快(ふゆかい)だ。


俺はスッと(あご)を上げて身を()らした。


雰囲気を変えた俺にエビス顔たちが身構(みがま)えるのが分かった――。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ