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172.ハレの宴(3)


新郎の父親役のフェイロンさんの合図(あいず)で、ささやかな祝宴(しゅくえん)が始まった。結婚の(うたげ)花婿(はなむこ)の父親が開くのが正式らしく、一応、形式は整えている。


歌う者あり、(おど)る者あり、芸を披露(ひろう)する者あり。手作りの宴が(にぎ)わい始めた。


新鮮(しんせん)な牛肉のシチューは(みな)に好評で、大いに盛り上がった。本当に一人が口に出来る量は少しなんだけど、それでも久しぶりの味は、(みんな)を笑顔にした。


小さな子どもたちには、お菓子も出せた。素朴(そぼく)なものなんだけど、子どもの笑顔はいい。


アスマたちはメイファンやユーフォンさんに連れられて、(みんな)の輪の中で紹介されている。なにやら盛り上がってるようなので、()んなに(まか)せておいた方が良さそうだ。


リンシンさんの作ってくれた薬草のジュースも美味しい。確かに、少しスカッとする。


そのリンシンさんは、薬房(やくぼう)でマッサージをしてくれてる(じい)さん連中から大人気だ。スナックのママさん状態で(かこ)まれてて、なんだか微笑(ほほえ)ましくも見える光景だ。


とは言え、そんなリンシンさんの笑顔が目に入ると、まだまだ「お(なぐさ)めいたします」と、いう言葉が(かさ)なって、軽く赤面してしまう。


俺のところにも皆んなが挨拶に来てくれる。そんな中に、エジャの母親役を(つと)めてくれた、空色(そらいろ)髪の女剣士さんもいた。


ヨウシャと名乗った女剣士は、一通りの挨拶を終えた後、驚きの事実を俺に()げた。


(むすめ)のスイランがお世話になっております」


「えっ? えー!? スイランさんのお母さんなんですか」


「はい。まさか、あの()司徒(しと)にまで取り立てていただけるとは。本当にありがとうございます」


「い、いえ……」


見えない。スイランさんは25歳。そのお母さんなら40は超えてるはず……。


スイランさんと、そう変わらない歳に見えるのに……。


(おそ)るべき童顔(どうがん)家系(かけい)だな……。


「あの……、じゃあ……、リヴァントとの(いくさ)()くなったスイランさんの剣士のお父さんっていうのは……」


(おっと)でございます」


「そうでしたか……」


「ふふっ。剣士はツラい戦場を共にし、職場結婚も多いんですよ。ヤーモンとエジャのように」


「すみません。アスマたち(むか)えるの、複雑ですよね……」


「ええ! 正直、めっちゃ複雑でございます」


キリッとした表情はスイランさんにそっくりだった。


「けれども、私も剣士としてマレビト様に忠誠(ちゅうせい)をお(ちか)いした身」


と、ヨウシャさんはにっこりと笑った。


「それに、日が落ちて人獣(じんじゅう)との闘いが始まれば、そんなことはどうでも良くなりましょう」


ヨウシャさんの視線の先には、シュエンと一緒に住民の輪に加わるアスマの緊張した笑顔があった。


「そんなことより、マレビト様。娘たちを紹介させてくださいませ。ルオシィ、ビンスイ、こっちにいらっしゃい」


と、呼ばれて来たのは、やっぱり空色髪の女子2人。


はにかんだ笑顔で、小さく頭を下げた。


……スイランさん、三姉妹(さんしまい)だったんだ。




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