169.落差の大浴場(3)
言い出すタイミングを見失ってたと言うメイユイが、おずおずと口を開いた。
「アスマたちを捕まえたときに押収してた荷駄が、宮城の衛士団詰所で見付かりまして……」
「本当か?」と、アスマが声を上げた。
「はい……。押収してスグに人獣が現れまして、アレがアレでしたから、手付かずで埋もれてしまってまして……」
と、メイユイは俺にお伺いを立てる視線を送ってきた。
「うん。全部、返してあげて」
「かたじけない」
と、アスマとラハマが頭を下げ、それに倣ったマリームの頭は俺の背中に激突した。
いてっ。
「す、すみません」
「う、うん。大丈夫」
ちょっと、痛い。後頭部でなかっただけ、良かったということにしよう。
「荷駄には我らの武器も装備も入っているし、鎧もある」
と、アスマが闘志を燃やすような声を響かせた。
「ああ、馬に着けるヤツですね」
「おお。鎧をご存じとは、ジーウォ公は馬に乗られるか」
「あ、すみません。知識として知ってるだけです」
「そうか、それでも嬉しく思うぞ。リヴァントと馬は切っても切れぬ関係だからな」
「あのぉ……」
と、再びメイユイが小さく手を挙げた。
ちょうど膨らみに目が行ってしまう位置に手を挙げないでほしい。
「押収してた、お三方の馬もですね、お元気でして……」
「ほんとっ!?」と、マリームが明るい声を上げた。
「はい。司徒府に預けてて、向うもバタバタで、いつの間にか『誰のかなぁ?』って、なってたみたいなんですけど……」
と、メイユイは俺の方を見た。
「もちろん、返してあげて」
「嬉しいっ!」
と、マリームが喜色に満ちた声を上げ、立ち上がった。
――ぱむっ。
……いや、マリームさん。俺の頭にのってますけど。
「もう諦めてたから、めちゃくちゃ嬉しい! 生きてるんだ、私のマール号……」
――むにんっ(左腕/下)。
アスマも感慨深げに口を開いた。
「愛馬も帰って来るか……。これならば憂いなく、存分に働かせていただける」
マリームがスルスルスルと、身を屈めた。
――ぱむっ。
今度は、肩にのってます……。というか、首がはさまれてます。
首って……、また、今までにない柔らかな感触が……。
「……ジ、ジーウォ公」
「なに?」
「なんか……、司空様がジーッとこっち見てるんだけど……」
あっ、と思ってミンリンさんを見ると、ウズウズという目をして、コッチを見てる。
……というか、ギリ睨んでるな。アレは。
……そ、そうですね。そろそろ、お話ししても良い頃合いですよね。
ミンリンさんとシーシを呼んで、改めてアスマたちに紹介する。
備蓄庫の地下牢での様子を証言することを、アスマたちは快諾してくれた。
俺の目の前に差し出されてる、ミンリンさんのが、喜びに揺れている。
この後、ヤーモンとエジャの結婚式の前に、時間をとることになった。あとは、本人たちに任せておこう。
それにしても……、左腕にアスマの、隣にミンリンさんの、そのまた隣にラハマの、それからメイユイの……。
うん……。豊かなのが、褐色、美白、褐色、美白と並んで揺れてますね……。
照れ臭くて目のやり場に困るし、右腕見たらイーリンさんのが滑ってるし、ミンリンさんの後ろではシーシが仁王立ちでニコニコしてるし、背中ではマリームのが滑ってるし……。
でも、まあ、褐色の女子たちが無事に「みんな」の一員になったんだってことにしておこう。
この後の結婚式でアスマたちを住民みんなにお披露目しても、きっと上手くいく。
褐色と美白の膨らみの揺れをチラチラ見てしまいながら、そんなことを考えていた――。