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167.落差の大浴場(1)


重臣(じゅうしん)会同(かいどう)承認(しょうにん)を受け、アスマたちには宮城(きゅうじょう)に一室を与え、ようやく地下牢から出してあげられた。


そして、日が落ち望楼(ぼうろう)(まね)いた褐色女子3人は言葉を失っていた。


玉篝火(サーチライト)の明かりは未知(みち)のテクノロジーであったし、その光で照らし出されるのは、凶暴化して共食(ともぐ)いする人獣(じんじゅう)たちの群れ、群れ、群れ。


そして、城壁上に時折(ときおり)()び上がってくる獰猛(どうもう)人獣(じんじゅう)。斬り掛かる剣士。


俺はある程度、見慣(みな)れてしまっていたけど、控え目に言っても地獄絵図だ。


「神は……、人間の(ほろ)びを……、望み……(たも)うた……」


と、聖堂騎士ラハマが(つぶや)いた。


夕刻の外征(がいせい)隊との戦闘を目にしていたアスマも、すべての人獣(じんじゅう)が凶暴化する、夜の様を目にするのは初めてだった。


褐色女子たち3人の(あお)い瞳から、驚愕(きょうがく)(おそ)れの色は去らなかった。


「俺は……」


と、望楼(ぼうろう)()ちた空気を(はら)うように、口を開いた。


「大人しく()われてやるつもりはありません」


茫然(ぼうぜん)としていたアスマが、俺の方を見た。


「ジーウォ公が、そして、ジーウォの(たみ)が何と闘ってきたのか、ようやく分かった……」


「申し訳ない。もう少し早く、地下牢から出して差し上げられれば良かったのですが」


「いや……、(かか)わりあるまい。早く見ても同じこと。結局、倒さねば外に出ることさえ(かな)わぬ」


少しずつ、元の落ち着きを取り戻していくアスマに合わせるように、ラハマも(うなず)いた。


シアユンさんが、いつもの氷の微笑(びしょう)を浮かべて、口を開いた。


怖気(おじけ)()かれましたか……?」


「ははっ」


と、アスマは(ようや)く笑顔を見せた。


「シュエンのようなことを申されるな。あの娘には散々(さんざん)(あお)られ、散々に世話になった」


「それは()うございました」


シアユンさんと微笑(ほほえ)みを()わしたあと、俺の方に向き直ったアスマとラハマの表情は、武人のそれになっていた。


「国を追われた身とはいえ、我らは(ほこ)り高きリヴァントの聖堂騎士である。必ずや、ジーウォ公のお役に立つ働きをしよう」


と、その時、マリームが(おそ)れの余り失神しそうになったので、(みんな)介抱(かいほう)した。


ラハマがマリームを抱き抱えて部屋に戻り、望楼(ぼうろう)にはアスマだけが残った。


「改めて高いところから拝見すれば、実によく連携が取れている」


長弓(ながゆみ)短弓(たんきゅう)、槍、熱湯、剣士。そして、その小隊編成(へんせい)と前線を交代(こうたい)するルーティン。矢と湯を補給(ほきゅう)する荷運(にはこ)び櫓。


(みんな)の動きは洗練(せんれん)され、統率(とうそつ)の取れたものになっている。


「あの、個々に闘っていた剣士たちが、こうも見事に連携の輪に加わっているとは……」


「彼らの中にはダーシャンの王都に家族を残している者も少なくありません」


「そうか……、それはツラいな……」


「アスマは、どう?」


「え?」


「リヴァントの(みやこ)に、大切な人を残してない?」


俺は()えてタメ口で問い()け、アスマは()もなく満月を迎えようかという月を見上げた。


「妹だな……。傀儡(かいらい)(まつ)り上げられ、女王を()がされた、妹のナフィーサだ」


「そう。じゃあ、妹を……、(たす)けに行こう」


「そうだな……。そうしよう……」


無尽蔵(むじんぞう)にしか見えない人獣(じんじゅう)の大波。


今夜も第3城壁、第2城壁を()()えて、次々に現れている。


(やぶ)られた第2城壁の城門からも流れ込んでくる。


それも、四方(しほう)から同時に。


()きることなく。


月明かりに輪郭(りんかく)を照らし出された人獣(じんじゅう)の影を、アスマと2人で(なが)め続けた――。



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