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161.司馬府の白黒(1)


ひと眠りした後、剣士府(けんしふ)から名を改めた司馬府(しばふ)にフェイロンさんとヤーモンを訪ねた。


名を改めたのは、軍事を(つかさど)る『司馬(しば)』の役職に()いたフェイロンさんの強い意向だ。


剣士たちのスペースを少し(けず)り、兵士団に割譲(かつじょう)されている。


「剣士だけが()()(かえ)っていて、それで良い状況ではなくなりましたからな」


と、フェイロンさんはこともなげに言った。


剣士たちのプライドを傷付けるんじゃないかと、少し心配だったけど、フェイロンさんの判断に従っている。


「マレビト様はジーウォ公の地位に登られたのです。呼び付けていただいてよろしいのですぞ」


と、執務室でフェイロンさんが言った。


「いえ、皆さんの顔も見たかったですし」


「マレビト様は変わりませんな」


やがてヤーモンが姿を見せ、本題に入った。


「捕らえた北の蛮族を兵士団に加えたい」


と、俺が言うと、フェイロンさんはニヤリと笑った。


(おっしゃ)ると思っておりました」


俺はアスマたちの境遇(きょうぐう)、リヴァント聖堂王国の話、そして追放された女王であることなどを2人に説明した。


そして、彼女たちと話し合いを重ね、ジーウォへの臣従(しんじゅう)を申し出てくれていることも。


ヤーモンは絶句(ぜっく)していたけど、フェイロンさんは穏やかに()みを浮かべた。


「感情を抜きにすれば、今の状況で考えられる限り、最強の援軍(えんぐん)でしょうな」


「そうです。感情を抜きにすれば」


「今回はどう乗り越えられる?」


フェイロンさんは少し楽しげでさえある。


もう。俺が苦労してるの面白がって。


「まずは【重臣(じゅうしん)会同(かいどう)】です。そこで、重臣の皆さんに彼女たち3人のことを知って(もら)います」


「ほう……」


「北の蛮族という大きな名前ではなく、アスマ、ラハマ、マリームという名前の、一人の人間であることを知ってもらわないと、始まりません」


「マレビト様らしいアプローチですな。ヤーモンはどうだ?」


「俺は……。いや、俺も会ってみたいです」


「うん。いい返事だ」


と、フェイロンさんは満足気(まんぞくげ)に笑った。


「マレビト様。(わし)も話してみたい。これまで、斬るか斬られるかだけ、本当にそれのみの関係でした」


俺は深く(うなず)いた。


「先日、抵抗(ていこう)するでもなく、城壁で待たれるマレビト様のところまで連行(れんこう)いたした。確かにあんな振る舞いをする北の蛮族は見たことがない」


「そうなんですね……」


「500年間、いや儂が剣士となってからの25年ほどの間、ただの1人も、捕虜(ほりょ)にも生捕(いけど)りにも出来てはおりません。ただただ凶悪(きょうあく)残忍(ざんにん)凶暴(きょうぼう)。まさか、国らしき国を(かま)えているとさえ、気付かぬほどです。そんな者たちが何を(しゃべ)るのか、聞きたくないはずありますまい」


……こ、こえぇぇぇぇ。北の蛮族。


狂戦士(バーサーカー)、という言葉が頭に浮かんだ。


俺も出会い方によっては、ただただ怖いだけの存在と認識してしまっていたかもしれない。


明日にでも【重臣会同】を開き、3人を引き合わせることを約束し、あとは雑談が始まった。


「ヤーモンに恋人ができましてな」


と、フェイロンさんが嬉しそうに言った。


「な……、剣士長。そんな、いきなり……」


と、ヤーモンはアワアワと慌てて見せた。フェイロンさんは剣士長も兼任(けんにん)している。まだまだ呼び馴染(なじみ)があるのは当然だ。


「へぇ! 良かったですね」


あの剣士府の演説でコンイェンに暴露(ばくろ)されて、イーリンさんに失恋してから20日あまり。


そうか……。ヤーモンは新しい恋に踏み出したのかぁ……。


フェイロンさんが、ニヤッと笑ってヤーモンを見た。


「どうだ? 純潔(じゅんけつ)を捨てた感想は?」


え?



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