152.お願い大浴場(3)
「あと、お願いがあるんだけど」
と、シュエンが俺の左腕をはさみながら言った。
――ぽみゅ(下)。
「うん、なに?」
「お城に逃げて来てる人で、お爺さんたちが結構ヒマなのね。若い人みたいに兵士にもなれないし、お婆さんみたいに料理やお裁縫も出来ないし」
――ぽみゅ(上)。
「うん」
俺の気付かないところを、よく見てくれてる。
「でも、今のお城でヒマにしてるのって、肩身が狭いじゃない?」
「うん……」
――ぽみゅ(下)。
「それで、ツイファさん直伝のマッサージを教えたら、結構上手なのよ、みんな」
「へぇー」
――ぽみゅ(上)。
「だけど、お爺さんだから足腰弱い人も多いワケ」
「そうか。そうだろうね」
――ぽみゅ(下)。
「でね。ここからがお願いなんだけど、リンシンさんの薬房にマッサージのお部屋つくってもらえないかな?」
「あ。いいかも」
――ぽみゅみゅ(上)。
「でしょ? 向こうから来て貰えたら、お爺さん達も楽だし、病気や怪我の人も、ついでにマッサージ受けられるし」
「ほんとだな。すごくいいアイデアだと思う」
――ぽみゅみゅぅ(下)。
「でも私は司徒府の所属だし、司空府のリンシンさんにはマレビト様からお願いして貰った方がいいかなぁって」
か、賢い……。重臣に抜擢されたからって調子に乗らず、身を弁えてる。
「分かった、俺からお願いしてみるよ」
――ぽみゅ(上)。
「ありがと」
シュエンに少し安堵した空気が流れた。
それなりに緊張して提案してくれてたんだな。もっと気軽に色々話せるようになりたい。
……リンシンさんかぁ。
――ぽみゅ(下)。
昨日の昼間の「お慰めします」っていうリンシンさんの言葉と、左腕を滑るシュエンの柔らかな感触が、突然、脳の中でごちゃっとなって、顔が赤くなる。
――ぽみゅ(上)。
急にリンシンさんに会うのが気恥ずかしくなって、ホンファかミンリンさんづてにお願いしようかと思ったけど、考え直した。
リンシンさんにしたら、突然高い身分に引き立てられて、本音では戸惑ってるはず。
まず、俺が率先して丁重に扱わないと、皆んなから侮られる元にもなりかねない。
自分で足を運んでお願いしてみよう。
そ、そういうことの対象として意識してしまってるのは、さておき……。
……大人の色香が、すごいんですよ。
――ぽみゅ(上)。
シュエンのは右腕に移っている。
「司徒府の雰囲気はどう? 新しい体制になって」
と、シュエンに尋ねた。
――ぽみゅ(下)。
「気に入らないヤツは、気に入らないでしょ」
「そ、そっか……」
――ぽみゅ(上)。
「だけど、マレビト様が即位されて、公国になったことを悪く言うヤツはいないかなー」
「そう……」
――ぽみゅ(上)。
「でもね。スイラン様が司徒になられたり、私が引き立ててもらったりしたのを、ブチブチ文句言ってるようなヤツの方が、意外と仕事出来るのよねー」
と、シュエンは楽しそうに笑った。
――ぽみゅ(下)。
「だから、コキ使ってやりましょうねって、スイラン様と言ってるの。それに、新子爵様も、可愛く頑張ってるよ」
新体制でトップが交代したのは司徒府だけだ。
でも、シュエンがしっかりスイランさんを支えて、スタートを切れてるようだ。
いずれ訪れる人獣たちとの決戦は総力戦になる。みんなの気持ちをひとつに出来るよう、気を配っていかないと……。
と考える俺の頭の中では、北の蛮族の褐色女子たちも「みんな」に含まれている。
……ガツンとショックなぁ。
一気に心の壁を壊せるような……、仲良くは出来なくても、ケンカは出来るようになるような、なにか――。