150.お願い大浴場(1)
夕暮れ時。今日は南側城壁の上から、外征隊を見守らせてもらっている。
イーリンさんは外征隊のメンバーとして城壁の外に出ており、代わって柿色の髪をした女性剣士が俺の護衛に付いてくれた。
あの剣士府での演説のときに見かけた、イーリンさん以外に2人いた女性剣士のうちの1人。
大浴場に来てないってことは、経験済みってこと……、と、あの時も軽く動揺してしまった。
エジャと名乗った女性剣士は、俺の側で、凶暴化した人獣が登ってこないか警戒してくれている。
歳の頃は、たぶん、俺と同じか少し下。膨らみも豊かで、経験済みかぁ……、って思うと、昼間にリンシンさんから「お慰めします」って言われたことを思い出して、赤面してしまう。
いやいや、いかんいかん。今はそれどころではない。
外征隊は今日も備蓄庫に到達して、資材を運び出している。
生傷は絶えないようだけど、安定的に闘えている。心強い。
これで、当座の間は木材の在庫の心配がなくなる。
ミンリンさんが考えてくれた『回廊決戦』を挑むには、また大量に木材が必要になるはずだ。
背後に目線を移すと、宮城が夕陽に染まっていた。
この時間帯の宮城を外から見る機会は、これまでそんなに多くなかった。
北の蛮族からの侵攻に備える質実剛健なつくりにも、王族が城主を務めたこともあるという宮城は、瀟洒な意匠も施されていて夕陽を反射している。
その地下には、あの褐色女子たちを捕えている。
ミンリンさんの執務室を出た後、ドレスを着直したシアユンさんと地下牢に足を運んだ。
褐色女子たち3人それぞれに話かけてみたけど、返事は返ってこない。
取り上げられていた服は返却されており、鎖の戒めも最低限のものに減らしてある。
着ている服は、黒地に金で複雑な紋様が施された装束で、文明度の高さを窺わせる洗練されたデザインだ。
蛮族という言葉のイメージからは、ほど遠い。
褐色の肌に、透き通るような銀髪。オフのレザーのような素材の装束に金の紋様。
名前も教えてもらえないし、見た目も共通してるところが多いし、俺は心の中で3人を「巨・大・中」と呼び分けた。……胸の大きさで。
さすがに、シアユンさんとも共有できる呼び方ではないので、心の中でだけ……。
褐色女子(巨)が一番立場が上なようで、俺の話には答えなかったけど「あとの2人は私に付いて来ただけだ。解放してやってくれ」とだけ言った。
解放したくても、それは即、人獣のエサだ。
地下牢に閉じ込められていた褐色女子(巨)に、外の状況が解っていないことは無理もなかった。
夕陽に照らされた宮城から視線を落すと、剣士の宿舎に戻る母親と娘の親子連れが目に入った。
シュエンが司徒府で配給の責任者になったことで、炊き出しやその他の作業に参加してくれる方が少しずつ増え始めたと報告を受けていた。
宿舎に引き籠っていた剣士の遺族たちが、同じ境遇のシュエンが責任者になったことで、少しずつ顔を上げ始めてくれている。
その報告をしてくれたツイファさんも、俺が以前にお願いした剣士遺族の動向を気にかけ続けてくれていた。
そのツイファさんは今、俺の横で南側城壁に立っている。
俺がジーウォ公に即位したことで、俺も【闇の者】の護衛対象になったんだろうか? いつもの澄まし顔で、涼しげに外征隊の戦況を見守っている。
やがて、外征隊は日没前に無事に城壁内に戻った。
日没後の戦闘に備えた準備が始まったので、俺とツイファさんは柿色髪の女性剣士エジェに礼を言って城壁を降りた。
外征隊は想像以上の戦果を上げている。
第2城壁奪還に向けて、決戦を挑む構想も始まった。
皆が、それぞれの持ち場で全力を尽くしてくれている。
今、俺が集中すべきことは、北の蛮族の褐色女子たちの心を開くことか。
当面、自分自身が為すべきことを確認しながら、夕陽で真っ赤に染まる宮城に戻った――。
本日の更新は以上になります。
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