149.決戦の構想(2)
「この『回廊決戦』の肝は、第2城壁の上を先に制圧してしまうことにあると思います」
と、俺は図面を睨みながら、ミンリンさんに問いかけた。
「はい。その通りです」
「外征隊が持ち帰った最新の情報として、建物の中には小型の人獣が潜んでいることが分かりました」
「小型の……」
「キツネや貂のような人獣です。備蓄庫の地下牢の木格子が、噛まれてボロボロにされていた様子もあったそうで、小型といえども侮れないようです」
「木格子が……?」
「はい」
「壊されてました?」
「いえ。中の囚人を救出するのに、木格子を少し槍の刃で削ったようですので、壊されるところまではいっていなかったようです」
「囚人が救出されてたんですね」
「あ、はい。すみません、まだ報告が届いてませんでしたか」
「いえ。衛士団は太保さまに引き取っていただきましたし、それは良いのですが……。その囚人と話をさせてもらうことは出来ますか?」
思わず、俺はシアユンさんと顔を見合わせてしまった。
そして、シアユンさんが口を開いた。
「ミンリン様。その囚人というのが、北の蛮族の女たちなのです」
「北の……」
と、ミンリンさんは絶句してしまった。
「我らとしても、決して交わりたくない相手ですが、向こうも心を開いて話をすることはないでしょう」
考え込んでしまったミンリンさんに、俺から話しかけた。
「ミンリンさんは、その囚人と話が出来たとして、何が聞きたいんですか?」
「……あの木格子は私が設計し、シーシに作ってもらったものです。人獣たちがどのように攻撃し、頻度はどのくらいだったか、噛んだのか、殴ったのか、それが聞きたいのです、が……」
「それを聞けると、どうなります?」
「これから設計する回廊の強度を決めるのに、とても参考になります」
それは――、重要な情報源だ……。
「しかし、相手が北の蛮族では……」
「分かりました!」
と、俺は敢えて明るい声を上げた。ミンリンさんとシアユンさんが、ハッと俺の顔を見る。
「時間はかかるかも知れませんけど、聞いてみます!」
胸を叩いて見せる俺に、ミンリンさんがプッと吹き出した。
「そうですね。マレビト様なら、お出来になるかもしれません」
「そうかもしれません……」
と、シアユンさんも微笑みながら目を伏せた。
「マレビト様は時間と段階を踏んで、この城を縛っていたシキタリをゆっくりと変えてしまわれたお方ですから。北の蛮族の心も開いてしまわれるかもしれませんね」
「ほんとうに。でも、シアユン様。時間をかけたといっても、あっと言う間でしたよ。まだ一月も経ってない」
「ほんとうですね、ミンリン様。第2城壁が陥落した日のことを思えば、すべてが夢のよう」
と、2人が優しげな眼差しで俺を見詰めた。
だ、だって、やるしかないでしょ……?
「それでは、北の蛮族たちのことはマレビト様にお任せして、私は私に出来ることを詰めて参ります」
と、ミンリンさんが少し表情を引き締めて言った。
「いずれ、長弓の方、短弓の方、槍の方、剣士の方、それにシーシとも詰めて、人の動き全体を決めていく必要がありますが、まずはその基に出来る図面を描くことに集中いたします」
メイファン、ミンユー、クゥアイ、イーリンさん、シーシなどの顔が次々に浮かんでいく。
皆で力を合せて、人獣に決戦を挑む。
そのことに、この場にいる3人の胸が躍っていた――。