表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/262

15.チュートリアル大浴場2日目(1)


()()けて戦闘が()むと、望楼(ぼうろう)を降り大浴場に案内された。廊下(ろうか)で前を歩くシアユンさんの後ろ姿を、まともに見れない。


移動中に通ったバルコニーのようになっている回廊(かいろう)からは、避難(ひなん)しているのであろう住民の姿が見えた。なにをしているのかまでは分からなかったけど、女性の姿もチラホラ見える。


みんな、(こし)のラインがピッタリとした、スリットの多い服を着ている。


異世界といえば中世(ちゅうせい)ヨーロッパ風と思い込んでいたけど、どうやら異世界(ここ)古代(こだい)中華風(ちゅうかふう)の異世界のよう。チャイナドレスがファンタジー風にアレンジされたような女性の服は、遠目(とおめ)に見る分には、ボディラインの曲線美(きょくせんび)が目の保養(ほよう)だ。


間近(まぢか)に目にしたら、赤面してしまうような気もするのだけど……。と、考えてる俺は、前を歩くシアユンさんの腰を見ることが出来ない。出来ないのに意識だけしてしまう。


なんとか別のことを考えようと、ひとつひとつ思い返していくと、たしかにネーミングも中華(ちゅうか)っぽい。リーファ、シアユン、ダーシャン、ジーウォ、イーリン……。


ようやくそこに気付けたのは、たぶん、里佳にフラれたショックで動きの(にぶ)ってた心が、剣士と人獣(じんじゅう)の激しい戦闘に刺激(しげき)されて、再び動き始めたんじゃないかって思う。


召喚された最初に第2城壁から脱出するとき、避難する住民や、お城の人を目にしているはずなのに、まったく覚えがない。あの時は、俺に涙目を向ける里佳の姿と、ごめんなさいという里佳の声が、頭の中で連続再生されてた。


大浴場に着くと、シアユンさんが当たり前のように服を脱ぎ、当たり前のように一緒に浴室(よくしつ)に入り、当たり前のように俺の背中を流し始めた。


え? これ、毎日ですか……?


健全(けんぜん)な男子、卒業したてとはいえ高校生男子として、(うれ)しくないシチュエーションではない。スレンダー長身(ちょうしん)美女(びじょ)と毎日混浴(こんよく)。なんて()かれるワード。


ただ、里佳にフラれたばかりの俺としては、状況の受け止め方が分からない。それだけじゃない。たぶん、元々、俺には向いてない。自分がこんなに初心(うぶ)純情(じゅんじょう)だったとは知らなかった。ただただ、照れる。全裸(ぜんら)の女性が側にいるってだけで、喜びよりも戸惑(とまど)いの方が(まさ)ってる。


「マレビト様」


という、シアユンさんの呼びかけに体がビクッと反応してしまった。ますます、恥ずかしい。しかも「はい」と応えるつもりが「ひゃい」と()んでしまった。


……自分のことを、もうちょっと(きも)(すわ)った男だと思ってたけど、女性に対してここまで免疫(めんえき)がないとは。(へこ)むわー。凹み、恥ずかし、照れ、嬉し。はぁ……。


「マレビト様のお年頃(としごろ)では、城壁での戦闘をもっと近くで見たい気持ちがおありかもしれません」


それはそうだ。(こわ)いと思う気持ちが強いけど、少しばかりは()がたぎるところもある。自分が闘うかはともかく、近くで見てみたい気持ちは、確かにある。


「ですが、マレビトとしての呪力(じゅりょく)顕現(けんげん)するまでは、普通の人間と変わるところがありません。戦闘は剣士に任せ、危険な行動はお控えくださいませ」


シアユンさんの口調は優しかったけど、強い意志も感じた。


――リーファ姫の命と引き換えの存在。


俺の存在は、シアユンさんにとっては、俺のことだけが見えている訳じゃない。()い上がって軽率(けいそつ)な行動をして無駄(むだ)に死んだりしたら、リーファ姫の命も無駄になる。


出来るだけ落ち着いた口調(くちょう)で「分かりました」と応えると、背中()しに伝わるシアユンさんの指先から、少し緊張が抜けたように感じた――。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ