137.革<あらた>まる日(1)
スイランさんが大浴場を新しい段階に進めた後、俺は【三卿一亭の会同】を招集した。
その場で新体制は承認され、正式に発足した。
宮城の南側広場に住民全員に集まってもらい、俺の口から正式に布告した。
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ウンランさんは病のため引退として、犯した罪は伏せた。
そして、新しい司徒にスイランさんを就けた。
財政は人獣を退けるまで大きな問題にはならないと判断し、スイランさんの兼務で保留。
替わって配給の担当として、シュエンを抜擢した。
急な立場の変更になるけど、大丈夫かと尋ねると。
「ふん。私を誰だと思ってるのよ」
と、鼻で笑われた。
ああ。本来、そういうキャラなんスね。
そりゃ、ズハンさんも言い負かせられますわ。元気を取り戻せてなによりです。
そして、シャオリンに子爵の爵位を継がせ、シュエンと共にスイランさんの補佐をさせる。
新子爵が部下として従うことで、突然の抜擢となったスイランさんへの逆風が、いくぶんかでも抑えられるのではないかと思う。
それにあたって、シャオリンは自ら地下牢に足を運び、ウンランさんに子爵位の剥奪を告げ、自身の継承を認めさせた。
「私もマレビト様を間近で拝見してきた1人です。その覚悟を示す時だと判断しました」
と、シャオリンは俺に恭しく拝礼してくれた。
既に堂々たる貴族の振る舞いであるように感じられて頼もしい。
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兵士団の兵士長にヤーモンを任命し、フーチャオさんを兵士団から切り離した。
フーチャオさんには一般住民を取りまとめる村長の職に専念してもらうと同時に、これまで司空の所掌だった治安維持を正式に受け持ってもらった。
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司空のミンリンさんには、治安維持を外したのに替わって、医療を受け持ってもらい、リンシンさんとホンファの薬師母娘を司空府の所属とした。
薬師として、剣士団と一般住民の間を駆け回ってくれてるけど、いつか、板挟みにならないとも限らない。そうなると、低い身分のままでは対応に苦慮するはずだ。
司空府に部屋も設ける、司空直轄の高位の役人とすることで、身分を確立させ、出来る限り安定した医療を提供してもらいたい。
「そんな、私のような農民が畏れ多いことです……」
と、リンシンさんは困惑してたけど、俺の懸念を伝えると、素直に受け入れてくれた。
恐らく既に板挟みになるような場面が生じていたのだろう。
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そして、行商人として薬の知識が豊富であることが判明したユエも、同じく司空府の所属とした。
ユエにはリンシンさんとホンファをサポートしてもらう。
最初は戸惑っていたユエだけど、ユーフォンさんがゆっくりと説明すると納得してくれた。
俺のお茶出し係は自然消滅で、寝起きの横乳ドッキリから、俺も解放される。ガッカリはしてない。
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さらに、初代マレビト以前にあった、軍事を司る「司馬」という役職を復活させ、フェイロンさんに就いてもらった。
司馬として剣士団と兵士団の双方を管轄してもらう。当面の間、剣士長は兼任とした。
役職名に「馬」が入っているのは、初代マレビト以前は騎馬兵が主力だったということだろうか?
俺の構想を基に、適切な役職名をシアユンさんに考えてもらったので、詳しくは分からない。
――司馬。
まあ、なんかカッコいいので、個人的には気に入ってる。
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そして、治安維持を担ってきた衛士団は宮城衛士団と名前を変え、正式に宮城内だけを管轄とした。
本来、衛士団は外城壁まで全域の治安維持を担ってきたけど、今の人員では不可能だ。
出来ないことを、そのまま担当させててもプライドが傷付き続けるだけだ。
宮城の外の治安を担う村長のフーチャオさんには、新たに自警団を組織してもらう。
その宮城衛士団を管轄するシアユンさんには、新たに「太保」という役職に就いてもらった。
太保は本来、国王の相談役の役職名らしく「少し大袈裟ですが……」と、シアユンさんは苦笑いを浮かべた。
俺のサポート役で相談役、かつ、宮城内を治める実権を持つ役職名として、シアユンさんに考えてもらった。
リーファ姫の筆頭侍女は兼務とし、引き続き祖霊祭祀も担ってもらう。この辺は、本当に分からないので、正直、丸投げだ。
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新体制の骨格は、
――太保シアユン(筆頭侍女を兼務)
――司馬フェイロン(剣士長を兼務)
――司空ミンリン
――司徒スイラン
に、加えて、
――村長フーチャオ
――兵士長ヤーモン
の6人。
さらに、司徒を補佐する子爵シャオリン、城内の食を担うシュエン、医療を一手に担う薬師リンシン。
そして、司空のミンリンさんを支え、司空府の実務を切り盛りしてきたシーシ。
この4名を加えた、合計10名を重臣として、新体制を布告した。
三卿一亭の会同は、ややこしいので、【重臣会同】に名前を改めた。
そして、俺自身の身分も大きく変わる――。